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医学会総会にて「医師の働き方改革」からダイバーシティを考えた

先週の土曜日は、第31回医学会総会のセッションにお声がけいただき、サクッと日帰り出張でした。自分の発表会場のJPタワーってどこ?と思ったら、あのKITTEだったのですね。有楽町の国際フォーラムと行ったり来たりで良いウォーキングになりました。春日会頭を筆頭に多数の方々が学術集会から市民向け企画までありとあらゆる方面でご尽力された大イベント。もともと4年おきであったため、ちょうどコロナ明けで対面・ハイブリッド開催、何よりでした。

開会式には天皇皇后両陛下もご出席されお言葉を。天皇陛下のネクタイが皇后陛下のジャケットの色とマッチしていて素敵ですね♫
登壇したのはセッションU40-5「U40が考える働き方改革後の未来 ~組織運営と現場の声は合致するのか?建前と本音を議論する~」で、

U40-5 U40が考える働き方改革後の未来 ~組織運営と現場の声は合致するのか?建前と本音を議論する~
2023年4月22日(土)16:00~18:00(第17会場 JPタワー ホール2)
座長 北川 雄光 (慶應義塾/慶應義塾大学医学部外科学)
         小松 宏彰 (鳥取大学医学部附属病院 女性診療科群)
演者 山田 悠史 (マウントサイナイ医科大学 老年医学科)
         高橋  泰 (国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻医療経営管理分野)
          的場 優介 (Department of Obstetrics and Gynecology, Vincent Center for Reproductive Biology, Massachusetts General Hospital, USA)
          田中 千陽 (東邦大学医療センター 佐倉病院 外科)
          大隅 典子 (東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野)
          調   憲 (群馬大学大学院医学研究科総合外科学講座肝胆膵外科分野)

上記の第31回医学会総会のサイトより

筆者は医学部に所属していますが、基礎研究者であったので、「医師の働き方改革」については耳にしていましたが、今回、来年4月からと目前に迫る法律改正に現場は対応できるのか?という逼迫した意見を伺うことができ、貴重な機会となりました。

「医師の働き方改革」のポイントは以下になります。

労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)第 141 条の規定により、医師に対する時間外・休日労働の上限規制が令和6年4月から適用されます。医師の時間外・休日労働の上限については、36 協定上の上限及び、36 協定によっても超えられない上限をともに、原則年 960 時間(A水準)・月 100 時間未満(例外あり)とした上で、地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準(連携B・B水準)及び集中的に技能を向上させるために必要な水準(C水準)として、年 1,860 時間・月 100 時間未満(例外あり)の上限時間数が設定されます。

下記の東京都のサイトより引用

そもそも、厚生労働省では『週40時間を超える時間外労働、休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなる場合』に、業務と発症との関連性が徐々に強まるとし、過労死に関して『発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし、6ヶ月にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外・休日労働』が認めらる場合は、業務が過労死労災認定に至ると強く評価できるとしています。

日本では医師が忙しい職業であることが当たり前として受け取られていますが、このような働きすぎの状況では患者にとっても良いはずはなく、さて、実際にどのように「改革」すれば良いのか、ということになります。

登壇者の口火を切ったのは、マウントサイナイ医科大学所属の山田悠史先生より米国の医師の働き方について。以下、当日にTwitterで残しておいたメモより。医師の考え方が若い世代ではWLB重視にシフト。FTE(Full-Time Equivalent)に基づく個別化された契約。リモートで自宅勤務もコロナにより始まる。タスクシフト。Well being への取り組み。重要なこととして、エビデンス構築。週80時間制限でも患者の再入院率の増加は無かった、入院期間死亡率むしろ減少。山田先生はFTEのうち0.8を指導医、老年医学コンサルタント、0.2が事務と教育(基本的には自由時間)。タスクシフトして医者の仕事を移す。ソーシャルワーカー、ナースプラクティショナー、フィジシャンアシスタント、医療ボランティアなどなど、多職種が医療を支えている。ウェルビーイング向上の取組みとして委員会、メンター、ファンドなどもある。とにかくフレキシブルな勤務形態が求められているとのこと。Twitterでも発信されている方で、リアルにお目にかかれ何よりでした。

3人目の登壇者的場優介先生もU40の方。現在は米国ハーバード大学のマサチューセッツ総合病院に研究留学中。「宿直許可(注)」は労働力搾取にならないか? そもそも、本務先からの給料だけでは家賃等生活費が払いきれない現状があり、バイトをしないと生計が立てられない。もし、医師バイトが制限されると収入減少となり、子育て世代などに厳しい。エフォートをどこに割けるかという点からみて、研究を行う医師がいなくなるのではないか? また、サブスペシャリティ(注)の問題もある。取得するとレベルアップ、残業は伸びるものの給与は比例しないとしたら誰も望まないのではないか? アンケートによれば、若い世代で仕事の優先度は下がっている。「やりがい」を全面に出すのは難しい。研究は自己研鑽なのか? エフォートを選べるように。業務内容に見合う対価が得られるべき。

宿日直勤務」とはいわゆる「寝当直」に相当し、「労働時間規制を適用しなくとも、必ずしも労働者保護に欠けることのない宿直又は日直の勤務で、断続的な業務」を対象にしており、つまり労働者の健康を害しない範囲の勤務を特例的に認める、という考え方ということです。

サブスペシャルティとは、現在の新しい専門医制度の基本となる「二階建て」構造のひとつで、各診療科の下に連なる細かな専門分野を指します。 医師国家試験免許を取得後、医師は2年間の初期研修を行い、その後、いわゆる後期研修医の間は19の分野に分かれる基本領域の専攻医となります。そして、3~4年の研鑽を積んだあとに基本領域の専門医資格を取得し、さらに基本領域と関係のあるサブスペシャルティ領域の専門医資格取得を目指して更なる研鑽を積んでいくことになるという制度です。

さらにU40の女性心臓血管外科医の田中千陽先生は、外科系でもマイノリティである心臓血管外科、さらに女性というマイノリティの立場から、分野内の独自のアンケートももとにご発言。仕事を辞めようと思ったのは職場の人間関係や上司の影響が多いものの、勤務時間の長さも影響。術後管理などの理由。心臓血管外科医の女性は7%もいない。子どもの存在がキャリアの障害と答えた心臓血管外科医(多くは男性)が4割というのは、まさに少子化を招くマインド。ご自身はU40の繋がりがあって乗り切れたとのこと。ネットワーキング、DX推進、YouTubeで外科のオペの研修動画配信、コンテストなども行っておられる。指導の際に適切な言語化は大事。

オーバー40の方2名のお話は、医師の働き方改革は行わなければならないことであり(総論賛成)、目前に迫っていることが確かで、日本ではこのような法律改訂が為されなければ永遠に変わらないであろうことも確か。ただ、現場の混乱、とくに患者側からみたときにオペができなくるなどの不利益が生じるのではないか?という点に大きな懸念がある(各論・・)。一方、社会の価値観の変化として、家庭や自分を優先したい人が増えていることも事実。各医療・医学分野それぞれで対応しなければならない。タスクシフト、DX、外来患者を削減することなど。医師は労働者、かつ、良き社会人でもあるべき、という時代。手術の低侵襲化により労働時間は短縮できるはず。

私は最後から2人目で発表し、「女性が働きやすい職場になることが全体のウェルビーングに繋がる」というスタンスより、日本で女性医師の参画がまだまだ少ないこと、その原因としての育児家事労働のジェンダーギャップ(その理由としての日本の男性の長時間労働)や無意識のバイアスなどを紹介しました。

今回、目前に迫る医師の働き方改革の問題点を知ることができ、たいへん勉強になりました。田中先生の中で、チーム医療を進める上では「言語化すること」が非常に重要であるのに、日本ではそれが為されていないことが多いという指摘がありましたが、これは、米国事情に明るい方山田先生、的場先生からも、日本では「申し送り」がきちんと為されていない点が指摘されていたので、共通するマインドがあるものと思われます。忖度文化と根っこは同じかもしれません。

医師の労働時間を減らす上で鍵となるのは、やはりDX(ただし、患者側もそれに対応していく必要があります)、難しいかもしれませんが、タスクシフト専門性に見合った対価(博士号取得者のキャリアパスの話と共通)、そして新しい制度で走りながらエビデンスを取ることだと思いました。国の健康・医療戦略に関わる重要な点なので、U40の声が社会を変えられるようにどこかのタイミングで発言しておきたいと思います。。

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