見出し画像

オープンアクセス関連シンポジウム@第46回日本神経科学大会を主催しました

第46回日本神経科学大会の大会企画として「オープンアクセス化とその課題から紐解く科学と論文の未来」と題するシンポジウムを企画しました。サムネイル画像は共催していただいた東北大学附属図書館職員の方に撮影いただきました。

3S10m  オープンアクセス化とその課題から紐解く科学と論文の未来
共催:東北大学附属図書館
※このシンポジウムは日本語で行われます
日時:8月3日(木)08:45-10:45
会場:第10会場(展示棟1階)
オーガナイザー
大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科)
林 和弘(科学技術・学術政策研究所)
演者
林 和弘(科学技術・学術政策研究所)
指定討論者
水島 昇(東京大学医学研究科)
上口 裕之(理化学研究所脳科学研究センター)
豊泉 太郎(理化学研究所脳科学研究センター)
奥山 輝大(東京大学定量研)

第46回日本神経科学大会HPより

林先生に論文の歴史からオープンサイエンスの推進までの全体像をお話いただいた上で、パネル討論として研究者の立場の現状認識についての意見交換を行いました。林先生のご講演内容は以下の書籍などを参照いただけると思います。

林先生は「政府が2025年の公募課題より、公的研究費に基づく研究成果に関しては即時公開(OA化)が打ち出されているのに、研究者サイドから何も声が聞こえてこないが、大丈夫だろうか?」というご指摘もいただきました。すなわち、APCを払ってOA化するか(ゴールドOAと呼ばれます)、費用をかけたくない場合には、機関リポジトリのような形で公開する(グリーンOA)必要が生じます。私も関連するいくつかの学会オフィシャルジャーナルの方には、この問題を指摘しています。(詳しくは以下に置いたPDFをご参照ください)

https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20230525/siryo1.pdf

神経科学学会員ではない水島先生には、OAジャーナルの1つであるeLifeの査読システムの変更点やその意図を伺いました。このジャーナルはノーベル賞学者のRandy Shekman先生が、学術情報流通の商業化に対抗するものとして2011年に立ち上げられました(あ、ノーベル賞を受賞されたのはジャーナル立ち上げた後の2013年ですね)。つい最近に変わった査読システムは、投稿された論文について、査読者からコメントは付くものの、それにどのように対応するのかは著者の裁量で行う、という形です。

そのことによって、eLifeの価値が下がるのではないか、という懸念もありましたが、まずはeLifeのプラットフォームを使えるかどうかについて、Scientific Editorが判断し、次のステップに進むのは投稿された論文のおよそ20%くらいに絞られるということになるようです。昨今、あまりに査読プロセスのエフォートが厳しいことが健全な論文出版となっていないという問題に対する一つの対応策ですね。

上口先生は、神経科学学会のオフィシャルジャーナルであるNeuroscience Research(NSR)の前編集長というお立場から、NSRの今後についてのお話を伺いました。ちょうどElsevierとの契約が更新になるタイミングなのですが、一方的に以下のようにHPにアナウンスが載っています。

From January 1, 2024, Neuroscience Research will become a full gold open access journal freely available for everyone to access and read. All articles submitted after August 31, 2023, are subject to an article publishing charge (APC) after peer review and acceptance. Learn more about hybrid journals moving to open access.

https://www.sciencedirect.com/journal/neuroscience-research

すなわち、エルゼビア社として、その傘下にあるNSRは今後、ハイブリッド誌(OA論文と非OA論文が混在)からfull OAに変わる方針とされています。ということは、すべての論文掲載についてAPCを支払う必要が生じます。その金額についての交渉も済んでいない段階で、方針を突きつけられた状態です。

若手の豊泉先生からは、"ドライ"な研究者(理論や情報科学系)の立場から、工学系で一般的なプロシーディングスというシステムについてご紹介いただきました。学会に発表できるかについて、プロシーディングス(ミニ論文のようなもの)を提出して査読され受理されたものはインターネット上で公開され、識別番号(DOI)が付いてその引用も可能です。迅速性が何より求められる研究分野の特質ということもあるのでしょう。

奥山先生からは、"ウェット"な若手研究者(動物や細胞を扱う実験系)の立場から、キャリアパスとハイインパクト論文出版、そしてAPCという三つ巴の状況についてコメントいただきました。

フロアからのご質問としては、購読料の高騰により、小規模大学において必要な論文が読めない問題についてのご指摘もありました。また、心理学分野に所属する鹿児島大学の菅野先生からは、文系の小さな学会(規模が100名未満などもあり)では、学会誌を維持できなくなり、所属大学の機関リポジトリを利用することが多い状況と、JSTが運営しているJ-STAGEを利用する学会誌等のフォーマットが不統一な問題などが話題提供されました。文科省に近い林先生によれば、それぞれの雑誌の独自性を行政側がコントロールしにくいことが説明されましたが、日本が合理性に欠ける良くない面だと私は思います。

ちなみに、筆者が所属する東北大学では100年以上の歴史のあるTohoku Journal of Experimental MedicineというジャーナルをJ-STAGEのプラットフォームに置いてうまく運用していることにも触れておきました。今後、こういう媒体は「即時OA化」のトレンドの中で伸びていきそうに思われます。

さらに、名古屋大学の木山先生からは、博士号の学位の要件として論文出版が義務付けられている場合に、今後の即時OA化されるとたいへん困ることになるのではないか、というご指摘が為されました。博士号授与のシステムは大学によって異なり、受理論文がマストではない大学もあります。本来、論文の受理と、大学院生が学位授与に相応しいかの審査は別であり、学位授与機構に認められた大学院大学の矜持として行うということもあり、一方で、大学の研究力評価に関して、インパクトの低い論文が多数出されることがマイナスに繋がるという側面もありますので、この点は大学として今後、よく考えるべきことと思われます。

神経科学学会の現理事長の山中宏二先生にもご参加いただき、NSRの次の契約については迅速に対応する旨のご発言をいただきました。研究評価とOA化の問題について、十分、議論することができなかったので、これはまた来年の課題としたいと思います。

参考
東北大学附属図書館「電子ジャーナルを考える」ポータルサイト

なお、9月より開始される東北大学の若手研究者APC支援については、学内用サイトとして情報掲載しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?