ある探偵小説マニアの日記(その14)by真田啓介
【以下にご紹介するのは、「探偵小説の愉しみ」と題して私が昔書いていたノートの記事です。今から40年近く前、一人の若者がどんなミステリ・ライフを送っていたか、おなぐさみまでに。】
■ 5/29
「EQ」No.34のブランド回想録④「セイヤーズとクリスティー」を読んで面白かったので、①~③も読んでみた。①はクイーンの追悼、②は自己紹介、③がCWAとDetection Clubの話。新入会員の入会の儀式次第が紹介されている。カーのエッセイ「世界最大のゲーム」に出ていた「どくろエリックの目」の意味がようやく分った。
「セイヤーズとクリスティー」は、探偵クラブの会員であった有名作家たちの行状記。セイヤーズという人は随分影響力があったようだ。カーの破目をはずしたエピソードにはちょっとびっくりしたが、考えてみればいかにもカーらしく、元気いっぱいの紳士ぶりで思わずほほえまれてくる。
ほほえまれてこないのがバークリーについての話で、「いやな性格の守銭奴」と決めつけられているのは、彼の作品にほとんど心酔している自分としてはあまり愉快な話ではない。ブランドに偏見があるとは思えないが、彼女が女性であることからくる観察力の限界といったものがあって、バークリーの全体像をとらえそこなっていたのではないか、そうであればよいなどと思ったりする。いずれにしろこの回想録、今後とも期待がもてそうである。
新刊書店で手に入る本で買いもらしがけっこうあるようなので、気がついたらすぐ買っておくこと。
・ポケミス コリン・デクスター etc.
・HM 「黄金の13(現代篇)」etc.
・創元 「ラッフルズの事件簿」etc.
中央公論社の新刊に注意 合作探偵小説「屏風のかげに」「スクープ」
島田荘司「占星術殺人事件」
※新聞切抜き(河野典生「アガサ・クリスティ殺人事件」書評)貼付
※新聞切抜き(向井敏「最近の海外ミステリーから」)貼付
■ 6/19
〇2週間くらい前、尼崎市のT氏から突然ポケミスのリストが送られてきたので、すぐに申し込んだのだが、まだ返事がこない。今回は38冊75,000円くらい申し込んである。シリル・ヘアーの「ただ一突きの……」だけでも入手できればよいのだが。
〇丸善からぼちぼち返事が来はじめて、
Carr「The Three Coffins」
〃 「Door to Doom & Other Detections」
Dickson「Department of Queer Complaints」
Iles「Before the Fact」
McGerr「Pick Your Victim」
等が届いている。1冊平均5千円くらいする。
しかし一方で品切れの通知も多く、
Berkeley「Trial & Error」
Chesterton「Napoleon of Notting Hill」
などは手に入らないのである。
〇きのう、おとといの2日で、新刊書店でポケミスを15冊ばかり買った。
ウールリッチ「喪服のランデヴー」「聖アンセルム923号室」「死はわが踊り手」「自殺室」(あとがきがない)「もう探偵はごめん」(他に晶文社の「さらばニューヨーク」も)、
デクスター「キドリントンから消えた娘」(「HPB」がない?)「死者たちの礼拝」、
ロス・マクドナルド「ギャルトン事件」、エド・レイシイ「さらばその歩むところに心せよ」、エリック・アンブラー「武器の道」、シェリイ・スミス「午後の死」、アンドリュウ・ガーヴ「道の果て」、モイーズ「死とやさしい伯父」、クウェンティン「わたしの愛した悪女」、ジャクマール&セネカル「グリュン家の犯罪」、
(HM文庫)ライオネル・デヴィッドスン「シロへの長い道」
大部分は以前なら手を出さなかったろうと思われるものだが、最近急にミステリに対する関心の幅がひろがってきて、今まで食わずぎらいでいた色々なジャンルのものに手を伸ばしてみようという心境なのである。本格ミステリだけでなく、ハードボイルドにも、犯罪小説にも、冒険小説にも、スパイ小説にも。
こういう気分になったのは、たしかに、ジョン・ル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ」を読んだことと無関係ではあるまい。この本はこのあいだエスパルの古本市で買ったうちの1冊であるが、何がきっかけでこの本を読むようなことになったのか、自分でもよくわからない。
ある晩この本を手にしてベッドにもぐりこみ、4日後の夜「ラスコオ」のあまり明るくない電気の下で読み終えたのである。読み終えたばかりの最後の1ページの上にぼんやりと目をさまよわせながら、心のうちは傑作を読んだあとの昂揚と、新たな「お気に入り作家」を見出した喜び、そして未踏の沃野の広大な豊かさに対する期待におどっていた。
あるいは、感動を無理に生み出そうとする自己演出も、いくぶんか入っていたかもしれない。読み進む途中から、ル・カレを自分にとってバークリー=アイルズに比すべき作家として位置づけてみたりしたのも、そのせいだったろう。すなわち、シャーロック・ホームズ、乱歩の短編、カー、チェスタトンのあとにバークリーを見出した(1週間のうちに「毒入りチョコレート」「トライアル&エラー」「レディに捧げる殺人物語」を息もつかずに読んだ)ときのあの喜びを再現してみたかったのである。
しかし、自分への演出だけではなかった。ル・カレはまちがいなく新しい鉱脈である。それを確かめるために、いま「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」に取りかかったところである。
※新聞切抜き(ロバート・バーナード「作家の妻の死」書評)貼付
■ 6/26
「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」を3、4日前に読み終えた。英国諜報部の中枢5人の中に共産圏のスパイがいる、という筋立ては非常に魅力的だが、あまりじっくり書き込まれていて、読むのはいささかホネだった。(コンディションが悪いせいもあったろうが、目が非常に疲れた。)
「寒い国から帰ってきたスパイ」もそうだったが、二重スパイを中心にプロットが組み立てられており、「もぐら」は誰か?という謎をめぐってストーリーが展開していくので、その点犯人探しの謎解き小説と似ていないこともない。もっと伏線を用意しておけば本格ミステリとしての味わいも加わったであろうが、それは作者の望まないところであったかもしれない。
ジョージ・スマイリーはもっとつき合ってみたい人物だ。
昨日の指定休日を利用して、神田へ行ってきた。
創元の世界推理小説全集全80冊揃い(!)を予約してきたほか、かなりの収穫があった。
(ポケミス)クリスティー「アリバイ」1,500(このあいだM企画から買ったが、状態が良かったのでまた)「予告殺人」1,500 クイーン「スペイン岬の秘密」1,800「災厄の町」2,000 ロス・マクドナルド「象牙色の嘲笑」2,000 スタウト「腰ぬけ連盟」3,500 ブランド「緑は危険」1,800
(六興キャンドルミステリ)クロフツ「製材所の秘密」500 ハメット「探偵コンチネンタル・オプ」1,000
(創元カー作品集)「彼が蛇を殺すはずがない」1,000「緑のカプセル」1,000(これも前に泰文社から買ったものより状態が良かったので)
カー「皇帝のかぎ煙草入れ」(中公)1,000 チェスタトン「ポンド氏の逆説」(創元推全)600 中島河太郎「日本推理小説史」12,000
あとから送ってもらうのが、
〇エラリー・クイーン作品集12冊揃い 15,000
〇おんどりミステリーズ10冊程度 各冊300~500
予約してきたのが、
〇創元世界推理小説全集全80冊揃い(!)
値札は18万となっていたが、5千円まけてもらい、17万5千円。3万円手付として置いてきて、残金を送りしだい送ってもらうことにした。(これのために家から10万円借りる)
このほか、新刊書を10冊程、including
「The Spy Who Came In From The Cold」
「The Great British Detective」
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