見出し画像

ある探偵小説マニアの日記(その6)by真田啓介

【以下にご紹介するのは、「探偵小説の愉しみ」と題して私が昔書いていたノートの記事です。今から40年近く前、一人の若者がどんなミステリ・ライフを送っていたか、おなぐさみまでに。】

■ 9/26 探偵小説初版本の膨大なコレクション(かつての島崎コレクションのような)のオークションで幕が開くミステリというのはどうか。
 Cf HMM319 p6「ガラスの鍵」初版、4千ドル(1ドル200円として80万円)
 「緋色の研究」1万5千ドル(300万円)

■ 9/29 本日購入、H・F・ハード「蜜の味」、カーター・ディクスン「魔女が笑う夜」、ディテクション・クラブ「漂う提督」、いずれもHM文庫。
「蜜の味」はホームズのパロディ。この類いの未読本がだいぶたまってしまった。解説でパロディ・パスティーシュの大まかな分類がなされている。あげられている本はたいてい持っている。犬のホームズもそのうち買わねばなるまい。(ブックセンターで一度見かけたが、表紙絵がいまひとつ気に入らず、買わないでしまった。)
「魔女が――」は、「わらう後家」の改題・改訳本。「わらう後家」はKさんから就職祝いにもらったHPBで読んだが、仁賀克雄「海外ミステリ入門」でトリックを割られていたので、それほど感心しなかった記憶がある。その点を割り引いて考えても、カーのものとしては中位の出来か。
「魔女が――」という訳題は、いかがなものか。一見オヤと思わせるが、よく見ると通俗的な感じもする。カーに「魔女」というのはつきすぎるので、新鮮味に欠けるのだ。前の「わらう後家」の方がよりスゴ味があってよいのではないか。(訳題といえば、「九人と死人で十人だ」のことも、忘れないうちに書きとめておいた方がいい。)
 カーの表紙絵はこのところ山田維史という人が描いている。わりとスッキリしてスマートで感じは悪くないが、もうひとつ物足りない感じもする。
 新刊予告には今度は「別れた妻たち」が出ている。数年前の飢餓感がウソのようである。
「漂う提督」は、いずれゆっくり読みたい本。チェスタトン、ノックス、バークリー、……ため息の出そうな顔ぶれである。作品じたいの出来はそれほどでもないようだが(こんな多人数の連作であれば当然だ)、黄金時代の雰囲気は充分に味わえるだろう。

■ 10/2 ロバート・バーナード「欺しの天才――アガサ・クリスティー創作の秘密」(秀文インターナショナル)を買う。
 この本は2、3年前、同じ所から本文は英語でカバーは日本語の奇妙な版が出ていた。金港堂で取り寄せたところ、本文の組みが逆さまになっていた(金港堂のオジさんは、意図的なものではないかと言っていた)ので、買わずにいた本である。
 内容は一応本格的な評論であり、付録としてかなり詳細なリストがついている。
 クリスティーも、もっと読んでみようか。

■ 守口市のH氏との交渉が成立し、「一日の悪」を「ゴルゴタの七」と交換してもらうことになった。月曜日に本を送らねばならないから、明日書籍小包用の厚封筒を買ってこなければなるまい。しかし、キキメ中のキキメ、「ゴルゴタの七」が手に入るとあれば、それくらいの手数は何でもない。
 H氏は「風が吹く時」も所持しているようなので、譲ってもらえないか申し込んでみるつもり。
 どうも、集めてばかりいてサッパリ読んでおらんな。

■10/3 キャサリン・エアード「そして死の鐘が鳴る」(HM文庫、オリジナル)を買う。「エドマンド・クリスピンを敬愛する……」というオビの文句にひかれて買ってしまった。密室殺人を扱った英国風本格ミステリ、ということで、内容にも期待がもてそうである。

■ 10/10 2~3日前に、大阪のHさんから「ゴルゴタの七」が届いた。箱にちょっとシミがあるほかは、美本といっていい状態。「一日の悪」の状態があまりよくなかったので、いささかうしろめたい。
「風が吹く時」の件は、(1万円の値で申し込んだのだが)他に流れなければタダで送ってくれるとの由。1対2のトレードとして。神さまのような人だ。しかし、もし送ってきたらただ受け取っていいものだろうか。
 ところで「風が吹く時」は、千葉のH氏にも1万円で申し込んでいる。どういう神経なのか、我ながら不可解である。

■ きのう丸光の万葉堂古書展で、泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」「乱れからくり」、創元大ロマン全集「拳銃王の死」を入手。
 前2者は初版本を持っているが、状態がよく何となく気をひかれたので買ってしまった。各600円。東京に行けばゾッキでもっと安く買える本ではあるが。しかし10年もたてばこの幻影城ノベルスはかなり貴重な本になっている筈だ。
 大ロマン全集はこれでたしか41冊目だったと思う。全65巻だから、あと24冊。完全蒐集も不可能ではあるまい。きょうにでもこの大ロマン全集と創元推小全集の所蔵リストを作ろうと思っている。
 推小全集はW君も集めはじめたようである。重複して持っていた「フレンチ警部最大の事件」と「かわいい女」を譲った。ライバルが増えるのは困るが、刺激にもなる。

■ ふと思い立って、洋書の探偵小説を10冊丸善に注文した。HMM247で仁賀克雄氏が紹介していた米ガーランド社のCrime Fictionシリーズ全50冊のうちから(追記、続巻50冊が出ている。EQのニュースらんを見よ)。

1 「Classic Stories of Crime and Detection」
4 「Trent’s Last Case」E.C.Bentley
10 「The Innocence of Father Brown」G.K.Chesterton
13 「Buried for Pleasure」Edmund Crispin
15 「The Hound of the Baskerville」A.Conan Doyle
24 「When the Wind Blows」Cyril Hare
27 「Was It Murder」James Hilton
34 「Pick Your Victim」Pat McGerr
37 「The Red House Mystery」A.A.Milne
43 「Strong Poison」Dorothy Sayers

 HMMでは1冊12ドルとなっているが(1976年当時)、タイプされた注文書を見ると、17.5ドルである。1ドル260円とすると、1冊5千円見当。外注は高くなるから、ひょっとすると7~8万円の出費を覚悟せねばならない。
 これは何としても英語をマスターしなければ引き合わない。
 注文書をタイプしてもらっている間、そばにあったBooks in Printを見ていたら、カーやクリスピンの本もかなり載っている。カーの「ゴドフリー卿殺害事件」も載っていた。この本は原書も見当たらないという筈だったのでは? いずれ注文して取り寄せてみたい。

※新聞切抜き(H・F・ハード「蜜の味」書評)貼付

■ 「書物蒐集狂(ビブリオマニア)事件」
 ラング「書斎」「愛書狂」 HMMオークション

■ 10/24 HMMがらみで、
〇奈良県のM氏に
 「喜劇役者」「世界は女房持ちでいっぱいだ」「老女のたのしみ」
 の代金として1,000円、
〇市川市のH氏に
 「風が吹く時」「鑢」「わが王国は霊柩車」「七面鳥殺人事件」「あの手この手」
 の代金として43,000円、
送金済。今週早々にも届くはずだが。
「風が吹く時」の件で守口市のH氏から、また丁寧なハガキが来ている。入手済の旨連絡すべし。

「陸橋殺人事件」はまだ出ない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?