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ある探偵小説マニアの日記(その11)by真田啓介

【以下にご紹介するのは、「探偵小説の愉しみ」と題して私が昔書いていたノートの記事です。今から40年近く前、一人の若者がどんなミステリ・ライフを送っていたか、おなぐさみまでに。】

■ 1983年1/30 ロナルド・ノックス「まだ死んでいる」
 年が明けてから初めて読んだ探偵小説であるが、のっけから傑作にめぐりあえて気を良くしている。
 もちろんノックスの作品だから相当の期待をもって読み始めたのだが、筋立てに起伏が乏しく、3分の2くらいまで読んだ印象では、文体に魅力はあるものの、探偵小説としてはいまひとつ――という感じだった。しかし21章「鏡に映った顔」あたりからの事件の解明を読み進んでいくにつれて、前半随所にいかに巧妙に伏線が張りめぐらしてあったか(「〇〇頁参照」)、この作品が探偵小説としていかによく考え抜かれているかを知って、その構成の緊密さに目を見張る思いがしたのである。
 メイントリックとしては、〇〇〇〇〇〇おけば死体はそのまま〇〇〇〇〇という、一般人にも容易に推測しうる医学的事実と〇〇〇〇との組み合わせである。手がかりをめぐっての小さなトリックや推理もいくつかあるが、それじたいは大したものではない。むしろそれらが無理なく、ごく自然な形で組み合わされ、しかし全体としてはかなり奇妙な物語となっている点にこの作の特色を認めるべきだろう。
 全体を貫く犯人の悪意といったものがないために、サスペンスが感じられず、読んでいる途中ではやや退屈になったりもするのが難点だが、逆にそうした要素を取り入れようとすればこの作自体が成立しなくなってしまう。一つの作品にすべてを要求することはできない。無いものねだりは控えるべきだ。カーの作品のような派手派手しさはないが、これはこれで第一級の本格探偵小説である。

「陸橋」の場合と同じく、叙述の方法を中心に細部で面白く思った点等をメモしておく。
P22上「この物語の第一章は老リーヴァ氏自身の言葉で語ってもらうことにしよう。……(手紙の引用)」
24下「飲酒時間外」?
25「ディーオダンズ」という習慣
26上「法律や社会習慣よりも過酷な債権者である良心」
27「父親はこう言った。――姉はこう言った。――義兄の意見はこうだった。――」 p28も繰り返し
32上「人間の行動には、われわれが自分で認めている以上に、自分の面子を保ちたい欲望が働いているものなのである。」
35下「ここでわれわれも、このお医者さんの人柄についてちょっと触れておく必要がある。」
36上「断種制度」
37上「医師は背が高く―― 弁護士は背が低く――」
38上「この世の中にとってはコクゾウ虫程度の価値しかない人間の生命を……」
38 相続税
40上「『各自、分に応じて』は法律だけじゃなく、医学にもあてはまりますからね。」
42上「ここでこの物語の次の登場人物であるマックウィリアムについて多少説明を加えておく必要があろう。」
49 五「今度も場面は朝御飯どきの食堂である。けれども――」
50上「この記事はここに全文をかかげておいたほうがいいかもしれない。……(引用)」
51下「だがこの記事のあとの部分には宣伝的な要素が加わっているので、その部分までも読者におしつける必要はあるまい。」
79上「まるでブレダンが引用句辞典ででもあるようにその顔を見つめた。」
79下「かりに怖くて飛び降りもできないような高い場所へ連れて行ったとしたらどうです?」 ~「密室の〇〇」
80下「絶対にという意味ではなくて、どうあてはめたらいいか僕にはわからないというだけのことですけど」
81上「四十五年には――」? ~発表年との関係
87下「わが国の誇りにしている教育が、文字を書くことは教えるが、ものを考えることは教えないときていますからね。」
90上「金曜日の夜まで」 から?
93 書目
94下「傍線を引かなかったということも、同じくらい意味を含んでいそうだった。」
126下 ローマ数字とアラビア数字
128下 加えてから、消す ~「陸橋」の切符
211上「重要な手紙を受け取った場合は――いつでもしばらくは眺めていて、中にどんなことが書いてあるか、内心賭けをすべきものだ。」
212~ 手紙を読む
219下「これは怪しいという感じを起させたのは、あの中に書いてなかったことなのだ。」
228下「人類の淘汰」
同  ひとを誤らせないためのちょっとした工作
243上 自動車をギャレージからもどす手筈は整えてなかったのか?

■ 3/21 今年にはいって2冊目(!)の探偵小説(これもノックス)を読んだ。
しばらく御無沙汰していたので、まずはこの間の覚書から。

〇W氏より別冊宝石50冊(3万)その他譲り受ける。「世界探偵小説全集」はこれで殆どそろったことになる。
〇Crime Fiction Ser.のうち、次の4冊が届く。
「Classic Stories of Crime & Detection」「Trent’s Last Case」「Was It Murder」「Strong Poison」
1冊7,700円也!(他は米国内でのみ入手可能という?)
〇Chesterton、Berkeley、Carrを合計50冊程注文済。ペンギンのFather Brownだけ届いている(ただ、米版・英版が混じっているので困る)。
〇「Annual Proceedings ――」のバックナンバー1冊届く。レオ・ブルースに注目すべきことを知る。
〇取引
・新宿区O氏(HMM)
「死時計」1,200「騎士の盃」1,200「ハイチムニー」1,200「推理教室」1,500 代済 本着
・板橋区O氏(HMM)
「殺人シナリオ」3,500「死の扉」6,500「思い出と冒険」6,500「名探偵は死なず」8,500「Xに対する逮捕状」12,500 代金送済
・市川市H氏(HMM)
「毒殺魔」「黄金の蜘蛛」etc申込中
・横浜市E氏(のみの市)
ドイル伝、ホームズ伝原書 5,000円送済
・W氏よりエム企画の目録入手、明日注文予定
〇新刊
「亡霊たちの真昼」カー、「マクベス夫人症の男」スタウト、「猫とねずみ」ブランド
「霧の中の虎」アリンガム(HMM)

■ 刑事コロンボ「野望の果て」
 上院議員候補者の犯罪。水準作。

■ ロナルド・ノックス「密室の百万長者」
 他殺か、自殺か、事故死か  ガスの3つの栓
 解明の手がかりの提示がもうひとつ充分でなく、「陸橋」、「まだ死んでいる」に比べてやや劣る出来。
 しかし、ノックス一流のゆうゆうとした筋の運び、ウイットとユーモアにあふれた文体は、この作品でもその持味をいかんなく発揮しており、それだけでも充分楽しめる。翻訳ではもう読むものがなくなってしまったので、さびしい限りである。
・エッセイ風の書出し
・「レイランドの活躍」「ブリードンの活躍」「イームズの活躍」
    ~カー「魔女の隠れ家」 ――の冒険
・逸話好き
 「それで思い出したが」「この話は聞いたことがあるかね」

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