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『真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみ』全2巻(フェアプレイの文学/悪人たちの肖像)』の刊行まで by荒蝦夷 土方正志

【2020年6月12日、当会にも長くお力添えをいただいております、探偵小説研究家・真田啓介さんのミステリ評論全集が刊行されます。そこで今回は、本書を刊行する出版社・荒蝦夷の土方正志さんに、刊行までの経緯を綴った文章をお寄せいただきました。】

 私たち〈荒蝦夷〉は、真田啓介ミステリ論集『古典探偵小説の愉しみ』全2巻を、この6月12日に刊行する。第1巻「フェアプレイの文学」と第2巻「悪人たちの肖像」に、これまでの真田評論全編を収録、解説は小林晋さんと塚田よしとさんにお願いした。以下、仙台の小出版社が本書刊行に至るまでの経緯を綴りたい。

 真田啓介って知ってる?……と、声をかけられたのは、日本ハードボイルドの嚆矢とされる高城高さん『X橋付近 高城高ハードボルド傑作選』刊行記念トークイベントの打ち上げの席ではなかったかと記憶する。高城さんの仙台を舞台とした短編をまとめた1冊が年末各社ベストテンにランクイン、そこで文芸評論家・池上冬樹さんを司会に高城さんと逢坂剛さんをお招きして仙台市内でトークイベント、その打ち上げ、2005年、いや年が明けて2006年のある夜だったか。声をかけてきたのは菊池雅人さん(現・仙台市広瀬図書館長)だった。菊池さんはいまはなき仙台伝説のミステリ・クラブ『謎謎』同人で、機関誌に高城高インタビューを掲載、その縁でこの打ち上げの席にいたわけである。

 ん、真田啓介? 誰だっけとしばし記憶を探る。ああ、そうか。国書刊行会『世界探偵小説全集』などクラシック・ミステリの出版ラッシュに欣喜雀躍、刊行される古典を片端から読んでいた。その解説者として記憶に刻んでいたのである。菊池さんは「真田さんって仙台人なんだよ」とさらりと続ける。真田さんもまたかつての「謎謎」同人で、仙台である要職に就いていると教えられた。ならばウチでもなにか書いてもらえないかとさっそく接触したが、タイミングがよくなかった。真田さんはそのころワケあって断筆中、原稿依頼は断念せざるを得なかった。

 再会は東日本大震災後だった。まったく別の要件で、真田さんの職場へ。仕事を終えて、真田さんの執務室に立ち寄った。執筆再開は藤原編集室「本棚の中の骸骨」やROM叢書『英国古典探偵小説の愉しみ』などで知っていた。それならば、と真田さんに水を向けると今度はまんざらでもなさそうだったが、互いに震災対応に追われ、なかなか具体的な動きには繋がらなかった。

 急展開は、2018年の暮れ。戸川安宣さんと東雅夫さんと共に石川県金沢市のイベントに招かれて「金沢ミステリ倶楽部」のみなさんとお目にかかった。その席に、はるばる仙台からやって来た読書会「仙台ミステリお茶会」メンバーの某「エラリー・クイーン」マニアがいた。仙台人ふたり旅の空で意気投合、「お茶会」を私たちが営む〈古本あらえみし〉を会場になどと話し合った。そしてその「お茶会」には既に退職した真田さんも関わっていた……。

 と、あれやこれやさまざまな縁が絡まり合って、本書の企画が動き出した。せっかく出すならすべて収録しようとしたら1冊ではおさまらず、2段組み各500ページ近い大冊が全2巻となった(あまりのボリュームに「索引」にまで手がまわらなかったのが残念、すみません)。限定500セット、セット価格8800円(税込)とちょっとお高くなってしまったが、本記事の読者にはかならずや楽しんでいただけるとお約束しながら、真田さんと出会って15年、東日本大震災を挟んで実現した本書を、みちのく仙台から世に送ります。よろしくお願いします。

※「Re-ClaM」4号掲載「真田啓介ミステリ論集刊行に当たって」を改題改稿

【本書の内容】
個人誌・同人誌から国書刊行会〈世界探偵小説全集〉、論創社〈論創海外ミステリ〉などなど、真田啓介ミステリ評論を集大成。「クラシック・ミステリ・ルネサンス」30年史の証言としても希有なる真田評論の集大成です。解説は小林晋(Ⅰ)・塚田よしと(Ⅱ)の両氏。新たなるミステリ評論の地平を、ぜひ。全2巻各500冊限定刊行となります。6月12日刊行予定、ご予約受付中です。

【ご予約について】
*予約特典として著者サイン入りでお送りいたします。
*予約販売につきましては分売不可とさせていただきますのでご注意ください。
*お一人様1セット限りとなります。
*6月12日から順次、レターパックライトでの発送になります。
*発送に関しては、別途送料を頂戴いたします。ご予約はこちらまで↓

書名/真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅠ フェアプレイの文学
著者/真田啓介
発行/2020年6月12日
本体価格/4000円
ページ数/464頁
ISBN 978-4-904863-69-5 C0093

書名/真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅡ 悪人たちの肖像
著者/真田啓介
発行/2020年6月12日
本体価格/4000円
ページ数/464頁
ISBN 978-4-904863-70-1 C0093

【著者略歴】真田啓介/まだ・けいすけ◎探偵小説研究家。「真田啓介」は「murder case」に基づく筆名。1956年東京生れ。東北大学法学部卒業。宮城県仙台市で地方公務員として勤務する傍ら趣味の探偵小説の蒐集・研究に取り組み、特にアントニイ・バークリー、ロナルド・ノックス、レオ・ブルースら古典的な英国作家の作品に親しむ。個人誌「書斎の屍体」の発行、クラシックミステリ・ファンジン「ROM」への寄稿などにより執筆活動を続けていたが、1990年代後半からの古典ミステリ発掘ブームに際会し、国書刊行会「世界探偵小説全集」、「論創海外ミステリ」等で解説を多数手がける。同人出版の著書にROM叢書10『英国古典探偵小説の愉しみ アントニイ・バークリーとその周辺』(2012)がある。

【『真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみ』全2巻目次】
第Ⅰ巻『フェアプレイの文学』
《1》アントニイ・バークリーの章
コックス『Jugged Journalism』ご紹介  
コックス『Mr. Priestley’s Problem』ご紹介  
バークリー『Roger Sheringham and the Vane Mystery』ご紹介  
探偵と推理のナチュラリズム(バークリー『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』解説)  
『毒入りチョコレート事件』論 あるいはミステリの読み方について  
『毒入りチョコレート事件』第八の解決  
「The Avenging Chance」の謎  
『ピカデリーの殺人』覚書  
プロットと心理の間に(バークリー『第二の銃声』解説)  
ロジャー・シェリンガム、想像力の華麗な勝利(バークリー『地下室の殺人』解説) 
空をゆく想像力(バークリー『最上階の殺人』解説)  
バークリーvs.ヴァン・ダイン――『最上階の殺人』の成立をめぐって  
ロジャー・シェリンガムとbulbの謎  
トライアングル・トリロジー(アイルズ『被告の女性に関しては』解説)  
書評家百態――バークリー周辺篇  
《2》英国余裕派の作家たちの章
ベントリー『トレント最後の事件』を論ず  
ミルン『Four Day’s Wonder』ご紹介  
神経の鎮めとしてのパズル(ノックス『サイロの死体』解説)  
フェアプレイの文学(ノックス『閘門の足跡』解説)  
ノックス流本格探偵小説の第一作(ノックス『三つの栓』解説)  
ミルワード・ケネディのプロフィール  
探偵の研究(ケネディ『救いの死』解説)  
霧に包まれたパズル(ケネディ『霧に包まれた骸』解説)  
レオ・ブルースとの出会い  
意外な犯人テーマの新機軸(ブルース『ロープとリングの事件』解説)  
名探偵パロディと多重解決のはなれわざ(ブルース『三人の名探偵のための事件』解説)  
謎と笑いの被害者探し(ブルース『死体のない事件』解説)  
メイキング・オブ・探偵小説(ブルース『結末のない事件』解説)  
『ミンコット・ハウスの死』読後感  
キャロラス・ディーン、試練の時(ブルース『ハイキャッスル屋敷の死』解説)  
天地創造のうちに開示される秘密(イネス『盗まれたフェルメール』解説)  
クリスピン問答(クリスピン『大聖堂は大騒ぎ』解説)  
クリスピン『Frequent Hearses』ご紹介  
クリスピン『The Glimpses of the Moon』ご紹介 
《解説》 ある精神の軌跡 小林晋  

第Ⅱ巻『悪人たちの肖像』目次
《1》イングランド・スコットランド・アイルランドの作家たちの章
ゴシック・ロマンスを読みすぎた少女  
魔神アスモデの裔  
『月長石』の褪せぬ輝き  
シャーロック・ホームズという人生  
クロフツ『樽』を論ず  
クリスティ『スタイルズの怪事件』を論ず  
セイヤーズ短篇集『顔のない男』解説  
ヘンリー・ウェイド入門の記  
ウェイド既訳長篇ガイド  
フィルポッツ問答(ヘクスト『テンプラー家の惨劇』解説)  
フィルポッツ『灰色の部屋』を論ず  
なぜに「駒鳥」と名付けたか?  
わたし とキューピッドがいいました(ヘクスト『だれがダイアナ殺したの?』解説)  
あるエゴイストの犯罪(フィルポッツ『極悪人の肖像』解説)  
また一人、〈悪人〉の創造(フィルポッツ『守銭奴の遺産』解説)  
〈鬼〉を呼び起こす密室物の傑作(デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』解説)  
時計が巻き戻されるとき(ディヴァイン『ロイストン事件』解説)  
いま一人の女王、再登場(メアリー・スチュアート『霧の島のかがり火』解説)  
ファンタジーの巨匠が残した唯一のミステリ作品集(ダンセイニ『二壜の調味料』解説)  
探偵小説とウッドハウス  
ウッドハウスの二大人気シリーズ  
《2》大西洋と太平洋の彼方の作家たちの章
異彩を放つ超本格派(ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』解説)  
文豪、座談家、ときたま探偵(デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』解説)  
動かす力としての愛(マーガレット・ミラー『雪の墓標』解説)  
バンコランの変貌(カー『四つの凶器』解説)  
探偵小説が若かった頃  
江戸川乱歩の「探偵小説の定義」をめぐって  
犯罪と探偵――『陰獣』論  
夢の終焉――『パノラマ島奇談』論  
明智小五郎の部屋  
乱歩に対峙する気魄の目録  
三読して『本陣』の美質を知る  
金田一耕助はなぜ留置場へ入れられたか  
第四の奇書『生ける屍の死』  
欲望と論理のアラベスク(狩久全集第五巻解説)  
六十年前のアンソロジイから  
Revisit Old Memories――「ROM」百号に寄せて  
加瀬さんの最後のご好意 
《解説》 稚気と論理と文芸評論 塚田よしと 


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