見出し画像

見た花と、見えた花

一枚の花びらが足下に舞い落ちた

昨日の僕が聞いた花の声は

その場で花から聞いた人にしかわからない

昨日の僕が見た揺れる花の表情は

その場で花を眺めた人にしかわからない

これはどこに咲いていた花だろうか

落ちた花びらは集めても花にはならない

花びらを握った手に一度だけ力を込める


例えば僕だけが見つけた愛する花を

誰かにその麗しさを説明するだろうか

落ちた花びらを貼り付けて違う絵を見せたり

花から聞いた言葉を僕の声にして聞かせたり

僕らは互いに見ていない花の話をして

体の内側で吹き上がる残り香を楽しむんだ


誰かの花があまりに魅力的に感じたとき

あなただけが知る花を見てしまいたくなる

そんな衝動に駆られる

決してこの目には映ることのない花は

僕の花とはどれほどの違いがあるのだろう

どれだけ違ってもいい

どれだけ似ていてもいい

僕らがそうして花を思う思念は

僕らがそうして花を彩る色は

僕らがそうして花を喩える言葉は

新たに花を咲かせる栄養になると信じて

笑顔に努めて花に声をかける

涙を許して花を思う


花は人の表現とともに

最果ての園へ少しずつ移ろいでいく

人は花の色香に誘われ

在りもしない最果てを目指す


それがバカでもいいんだ

一度の人生なんだから

穏やかに楽しめればそれで

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?