初投稿(哲学)『アンパンマン』における人格の同一性とは何か

初めまして。初投稿です。

哲学について、書いてみたいと思い、投稿することにしました。

と、言いつつも、自分は哲学の専門家でもなく、他学部講義で履修した哲学の授業で強烈なインスパイアを受けた外国語大学生です。この講義での最終レポートを投稿してみようと思います。

至らない箇所しかないと思いますが、お手柔らかに、、、



『アンパンマン』における人格の同一性とは何か
目次

はじめに
1.記憶説① アンパンマンの新しい顔
2.記憶説② アンパンマンの死とドーリィの命
3.身体説 ロールパンナとブラックロールパンナ
まとめ
引用・参考文献

はじめに
今学期、「哲学と思考」の授業で、様々なことを学びました。その中で、自分が特に面白いと感じたテーマは、「人格の同一性」です。身体説と記憶説を学びましたが、どちらも完全な論理を展開するのは難しいです。しかし、現代社会と密接に関係する問題でもあります。特に近年問題となっているクローン技術の倫理的問題にも関わっており、非常に身近な問題となっています。現代社会は流動的であり、行為の問題を一つ一つ提起していくのはかなり難しいと言えます。しかし、一歩先を行く文明と比べるとどうでしょうか。比較対象があることで違いを見つけることができ、問題提起ができます。今回その比較対象とするのが『アンパンマン』です。アンパンマンの世界では、顔を作ること、食べること、新しいものにすることが日常的に行われています。仮に、現代社会でそのようなことができる技術があっても、それは許されないかもしれません。しかし、アンパンマンの世界では許されています。それがなぜなのか。人格の同一性をテーマに紐解いていきます。

1.記憶説① アンパンマンの新しい顔
 「アンパンマン、新しい顔よ」
そういってバタコさんの手から放たれた顔は、曲線を描き、主人公であるアンパンマンの首元へと着弾します。つけていた顔ははじき出され、回転しながら新しい顔が装着され、「元気」が100倍となり、敵役のばいきんまん等をパンチ、もしくはキックにて制裁します。
 ここで問題となるのは、顔が変わる前と顔が変わった後のアンパンマンは同一か、ということです。身体説だと仮定した場合、身体に変化がある場合、人格の同一性は認められません。しかし、周りのキャラクターの反応を見る限り(※1)、同一の人物として扱われているように見えます。顔の交換前と交換後を比べても、皆「アンパンマン」と呼んでおり、「アンパンマンはいつも優しい、いつも助けてくれる(※2)」とあるように、同一の人物として扱われています。また、アンパンマン自身も交換前と交換後に記憶の変化がなく、記憶説の観点から顔の交換が成功していると言えるでしょう。では、記憶媒体はどこにあるのでしょうか。
 アンパンマンの顔に記憶媒体があると仮定した場合、ジャムおじさんが新しい顔を作っている過程で記憶がコピーされていると言えます。しかし、その間もアンパンマン(実体)は戦っている状態であり、リアルタイムでのコピー、ならびに顔の投擲動作を考えると、必ず時差が生じてしまい、最新の記憶がコピーされているとは言えません。また、アンパンマンの顔は食べられても良いこと、汚染・水没といった機能不全に陥るような致命傷が与えられても記憶が失われていないこと、顔が無くても動けること(※3)を考えると、記憶媒体は胴体に存在していると考えられます。では、胴体はどういった存在なのでしょうか。
 アンパンマンでは、胴体は攻撃を受けることがあっても、胴体の交換はされません。また、顔とは違い汚染・水没があっても損傷を受けません。そのため、車で例えると顔は燃料、胴体はエンジンかつコンピュータ(ソフトウェアとしての記憶媒体)であると考えられます。では、アンパンマンの記憶が胴体で保存されていると仮定した場合、どのように保存されているのでしょうか。
 アンパンマンの胴体の構造を調べました。作者であるやなせたかし氏へのインタビューによると(※4)、「首や胴体はなく、服の中はがらんどうになっている。身体はないのかもしれない。アンパンマンは妖精のような存在であり、身体が本当にないのか、私たちに見えないだけなのかはわからない。生まれたばかりの時に、作者は1度だけ裸体を描いているが、今はわからない」とされています。
 以上の点から、記憶は顔ではなく胴体に保管されているが、その胴体は人間とは異なり、現在の人類の文明レベルでは存在自体を証明することはできないということが分かりました。現在の人類の文明レベルで考えられることは、胴体の中、もしくは胴体を介してクラウド空間に記憶が送られる、もしくは体内に4次元世界が広がっているなどが考えられますが、それを追求することはできません。しかし、こういった設定から、どこかしらにアンパンマンの記憶があれば、それはアンパンマンとして存在し続けるといった究極の記憶説であるということがうかがえます。では、胴体が破壊される、すなわち考えられる「死」に最も近い現象が起きた時、アンパンマンはどうなってしまうのでしょうか。


2.記憶説② アンパンマンの死とドーリィの命
アンパンマンシリーズにおいて唯一、アンパンマンが死んでしまう描写が存在します。それは、映画「それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ」です(※5)。アンパンマンは炎の攻撃を何度も受け、マントは燃え尽き、体はだんだんと石化していきます(マント以外の衣装は燃えていないことから、胴体の一部であると仮定します)。アンパンマンの体から光が抜け出し(この作品のテーマである「いのちの星」=魂)、完全に石化します。その状態のアンパンマンにバタコさんが新しい顔を投擲しますが、顔は入れ替わらず、新しい顔も石化してしまいます。アンパンマンの死を悟ったドーリィは自らの命の星を取り出し、アンパンマンに与えます。するとアンパンマンは復活し、ドーリィは人形となってしまいます。復活したアンパンマンはいのちの星をまとったパンチを放つことができるようになり、敵を撃退します。その後、アンパンマンが人形になったドーリィを抱えながら「ドーリィちゃん…君は僕の中で生きているんだ…ずっと、ずぅっと。一緒に…」と発言すると、空に大量のいのちの星が現れ、その一部が人形の中へ入り込みます。そして人形となったドーリィが再び目を開けるところで映画は終わります。ここで、1で行った考察との相違点が現れるので、さらに考えていこうと思います。
まず、アンパンマンの死と復活ついてです。アンパンマンが死ぬ描写が描かれていますが、これについては想定内です。アンパンマンというハードウェア(胴体)が破壊されたため、機能不全となります。しかし問題は、復活後の行動、発言です。行動に関しては、いのちの星が手に纏わりついている点です。復活の方法は人間でいう心臓移植だと考えられますが、だとすればそれ以上の機能が追加されることはありません。また、体が石化して死んでいたにもかかわらず、自身の中でドーリィが生きているという自覚があることは不自然です。なぜこのようなことが起きているのでしょうか。
一つ目に考えられることは、いのちの星が「心臓+α」の存在であるということです。心肺機能のみならず、覚醒作用を有している物質、もしくは新たな器官であることが考えられます。二つ目に考えられることは、記憶媒体の補助的機能です。アンパンマンが死んでいる間は、アンパンマン自身が事の成り行きを記憶しているとは考えられません。そのため、死んだ後に復活するまでの間に起きた「いのちの星がドーリィからアンパンマンに移った」という記憶は、いのちの星以外が持っていると考えられます。また、完全にドーリィの記憶を持っていないことから、本来胴体で持っている記憶の保存(コピー)はできないが、いのちの星が体外に放出された際の移動記録は持っていると考えられます。そのため、いのちの星は心肺機能ならびにいのちの星自体の移動に関する記憶は持っていると言えます。
次に、ドーリィの復活についてです。ドーリィは自らが所有するひとつのいのちの星を死んだアンパンマン与え、アンパンマンは復活し自らは死んでしまいます。しかし、後にアンパンマンに抱きかかえられ、復活するシーンでは、空から大量のいのちの星をが現れ、その一部が体内に取り込まれていきます。このシーンに関しては謎が残ります。なぜなら、その後の言動が不明だからです。ここで人形であった期間の記憶があれば、アンパンマンの世界では死んでも身の回りで起きていることは記憶され、復活することでそれをアウトプットすることができるようになると考えられますが、この点に関しては不明です。また、複数のいのちの星が取り込まれたというのも不可解な点です。考えられる可能性としては、心臓(+α)が複数のパーツに分かれており、それが組み合わさることでひとつのいのちが完成するという考え方もできますが、本作において命の重みが同じであると定義されていないため、これ以上追求することはできません。
いずれにせよ、体のパーツやいのちまでもが変わったとしても、記憶が生き続けている限り人格は同一であるという記憶説の考え方が採用されています。


3.身体説 ロールパンナとブラックロールパンナ
 アンパンマンの世界で唯一、身体説の考え方が採用されているキャラクターがいます。それが、ロールパンナです。このキャラクターはふたつの人格を持っており、もう一つの人格の際の名前をブラックロールパンナと言います(※6)。ロールパンナは、白い布で顔を覆ったロールパンのキャラクターです。先に存在していたメロンパンのキャラクターであるメロンパンナの「姉が欲しい」という要望に応えるため、ジャムおじさんが創り出しました。創る際に非常に珍しい「まごころ草」の花粉を混ぜて作られましたが、ばいきんまんの手により「バイキン草」のエキスも混ざってしまったため、善悪両方の心を宿してしまいます。普段(ロールパンナ時)は無口でクールな性格をしていますが、ばいきんまんに唆されると悪の心が反応し、ブラックロールパンナとなりどんな悪行も厭わないようになってしまいます。初期ではアンパンマンを敵視しているため、アンパンマンの名を聞いただけでブラックロールパンナとなってしまうこともありました。ブラックロールパンナと化した際は、全身が黒く染まり、目は赤く輝きます(身体の交換等は無し)。優しい時の記憶も薄れてしまうようで、一晩を共にしたハンバーガーキッドに対し「誰だお前は」という発言も見られました。しかし、メロンパンナが「ロールパンナお姉ちゃん」と呼びかけると、もとのロールパンナに戻ります。ただしまごころ草の花粉を取り除かれてブラック化した際はメロンパンナの声も届きませんでした。また、ロールパンの交換はなく、汚染や水没といった致命傷となる描写は見られておりません。
以上点から、身体の変化はあらず、人格の変化によって記憶が変化すると言え、アンパンマンの世界では唯一、身体説の考え方が採用されているキャラクターであると言えます。それは、なぜなのでしょうか。
自分は、記憶説では伝えられないことを伝えるために創り出されたキャラクターであると思います。記憶を超越した際、つまり体だけが同じで中身が別人の人物に対し、そのほかのキャラクターがどのように扱っていくのか、特に兄弟であるメロンパンナはどうするのかという、記憶説のキャラクターしか存在しない世界では表現出来ないことを表現するために創られたのではないかと思いました。ここで伝えたいことは、他のキャラクターとの関わりにおいては「友情」、メロンパンナとの関りにおいては「姉妹愛」を描きたかったのではないかと思います。この視点は記憶説の中でも描くことはできますが、敵対することがなくなり、読者にもっと広い視点で考えてもらうためにあえて他のキャラクターとは別の視点で設定されたキャラクターを作り出したのではないかと思いました。また、この世界では戦いにおいて記憶説の考え方が採用されているキャラクターは体を交換することが可能なため、身体説の考え方が採用されているキャラクターと比べれ圧倒的に有利ですが、与えられる変化が自らの信条の変化のみであり、汚染や水没といった描写を作らないことでパワーバランスを保っているのではないかと思いました。


まとめ
アンパンマンの世界では、全体的には記憶説、一部のみ身体説がとられているということが分かりました。その説がとられていること、異なる考え方が両立している理由は、子どもたちに伝えたいことが的確に伝わるようにするため、子どもたち自身がより深くまで考えるようにできるためだと思いました。自分はこの授業を履修するまで「記憶説」「身体説」の考え方は知りませんでしたが、内容はどこか聞き覚えのあるようなものでした。それは、過去に学んだというわけではなく、人との関わり、社会での経験の中で見出した答えが分類化されているからだと思いました。アンパンマンの作者であるやなせたかし氏が子どもたちに対し、学術的に人格の同一性とは何かを伝えたいかはわかりませんが、社会で学ぶことを通じ、豊かな人間関係を築くこと、より良い人間性を獲得する手助けをしようとして出来上がった作品なのではないかと思います。そのうえで、大人になってからこうして学術的に考えた際も、わかないことはわからないと設定することで論理の矛盾を回避し、作品全体の思想、内容がバランスよく保たれる構造になっていると思いました。アンパンマンで人物の同一性とは何かを考えることに意味があり、考えることでより豊かな人生を歩めるのではないかと思いました。


引用・参考文献
※1『変身アンパンマン集』(YouTube)2021年7月25日視聴https://www.youtube.com/watch?v=TYOJpq439zM
※2『アンパンマンについて』(それいけアンパンマン)2021年7月25日閲覧https://www.anpanman.jp/about/qanda/index.html
※3『首無しヒーローだった…!アンパンマンの怖い話やキャラクターまとめ』(知らない方が良い…人気アニメの怖い話都市伝説No1)2021年7月25日閲覧
https://anime-toshidensetu1.net/%e9%a6%96%e3%81%aa%e3%81%97%e3%83%92%e3%83%bc%e3%83%ad%e3%83%bc%e3%81%a0%e3%81%a3%e3%81%9f%ef%bc%81%e3%82%a2%e3%83%b3%e3%83%91%e3%83%b3%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%81%ae%e6%80%96%e3%81%84%e8%a9%b1.html
※4『やなせたかし先生の答えもどこか深すぎる。「アンパンマン」の気になる謎』(hapimama ハピママ)2021年7月25日閲覧
https://ure.pia.co.jp/articles/-/12996
※5『それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ』(アニヲタWiki(仮))2021年7月25日閲覧
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/?cmd=word&word=%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A3&type=&pageid=4663
※6『ロールパンナ』(アニヲタWiki(仮))2021年7月25日閲覧
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/15222.html


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