アトリエで働くフラワーデザイナーにインタビューしてみた
今回、インタビューをしようと思ったきっかけは、「普段あまり注目されない物事にスポットライトを当てたい」と思ったからである。
自分自身、自分の頭の中で出来上がったものを表現し、人を感動させて、あるいはその人の人生を豊かにして、お金をもらって生きていきたいと思っていた。
それが、ある時はバンドだったし、ある時は作家だったし、まあとにかく若さに任せていろんなことを試していた。
当たり前だけど、そういう仕事は誰でもなれる仕事じゃない。
本人の努力と、才能と、運が必要だ。
今はプレイヤーではなく、プレイヤーとお客さんの橋渡しをしたいと思っている。
芸術に関わる人達は良くも悪くも、「文脈」を省きがちだ。察してほしいって気持ちもあるし、「そんなことは作品にすでに込めている」ってことなんだけど、すぐに何かを解決したがったり、不安が故に物事を決めつけてしまう人が多い現代で、それはちょっと不自由だったりする。
その間に入って伝えていきたい。
そんなこんなで知人づたいでこの価値観に共鳴してくれそうな人に声をかけてみたら、インタビューを承諾してくれた。
今回インタビューしたのはアトリエでフラワーデザイナーとして働く佐々木陸さん(24)。
ご実家が盛岡で商いをしているお花屋さんで、いずれ実家を継ぐために、東京で修行をしている駆け出しの社会人だ。
※ご実家のお店や、所属の会社名は本人の意向でふせています
ーお花に関わる仕事がしたいと思うようになったきっかけは?
地元の大学を卒業し、就職を考えるタイミングで、最初は花とは全く関係のない業界で仕事を探していました。
単純に地元を出たいという気持ちもあったし、一度は外の世界で社会人としての経験をしたいと考えてました。
でも、「ゆくゆくは実家の花屋を継ぎたい」とどこかで考えていたんだと思います。花屋とは関係のない業種でも、いい経験になるだろうとは思っていたけれど、どうせなら最初から花屋の業界で、実家ではなく外でしか学べないものを得て持ち帰りたいと思い、縁があって今の会社に就職しました。
ー選択肢として、就職のタイミングで実家を継ぐっていう選択もあったと思うんですけど、それを選ばなかったのには何か理由があるんですか?
実家で花屋としての仕事はいくらでも教えてもらえるけれど、フラワーデザインの仕事やもっとスケールの大きい仕事をしてみたいという気持ちがあったので、それが大きいと思います。
あとは単純に地元を出たかった(笑)
ー今の会社にはどのような形で入ったんですか?
実はすんなり仕事が決まったわけではなくて、最初は北は北海道から、南は九州まで、とにかく電話をかけまくったんですけど全部断られて。
実家からは「体がもたないから5年ぐらいでかえってきてほしい」とは言われてるんですけど、花屋の業界はどこも人手不足で、3~5年働いて出ていかれるのはお店的にも大変だということで、どこも難しいって感じでした。
色々迷ってはいたんですけど、まずは箔をつけようと思って、花屋が運営している専門学校に1年通って、改めて仕事探しを始めました。
花屋(実店舗)で働くことも考えてましたが、そのタイミングで父から「この会社のデザイナーは良いから学びに行ったほうがいい」という勧めもあって、アトリエに面接を受けに行ったのが経緯です。
ーその専門学校ではどんなことを学んだんですか?
ほんとに基礎中の基礎からです。
ナイフの使い方から、フラワーアレンジメント、花束の組み方まで地道に一つずつ学んでいった感じでした。
ー今のお仕事の大まかな流れを教えてください。
大体はクライアントからフラワーアレンジメントの装飾の依頼を受けて、打ち合わせをしながら費用などを計算し、見積もりを作っていく感じです。
その時に、どんな装飾のイメージにしたいのか、例えば色や大きさの要望などを伺ってすり合わせていきます。
大体は法人で、百貨店やアーティストのライブなどの装飾もやってますし、たまに個人の依頼も受けたりします。常連のクライアントさんのなかには、費用だけすり合わせてあとはお任せでという方もいますね。
現場では、市場で仕入れた花やあらかじめ用意しておいた入れ物などを運搬車で運び、0からアレンジメントしていきます。
材料が重いことが多いのでかなり力仕事で、この仕事の大変な部分の一つかもしれません。
ー素人目線で大変申し訳ないのですが、アレンジメントはその人の感覚で作り上げていく部分が大きいですか?
難しい質問ですね(笑)
基礎としてオールラウンドやワンサイド、トライアングル(三角)、といった形の型みたいなものはあります。
そのうえで、その場の環境やシチュエーションに合わせてアレンジメントしていくので、半分半分って感じですかね。
フラワーアレンジメントの世界にも、師匠と弟子みたいな関係はあったりして、一緒に仕事をしながら技を受け継いでいく人たちもいますし、最初から自分の世界観をつくり上げていく人もいたりします。
ー佐々木さんの中で、師匠あたる人だったり、参考にしている方はいたりしますか?
自分の師匠は直属の上司ですね。名前は出せないんですが、迫力が全面にでるようなダイナミックな作品が多くて、自分もこんなアレンジメントをしてみたいなと思ってます。
そのほかだと、AMKK(東信、花樹研究所)さんとか、丹羽英之さんの作品が好きです。
ーアレンジメントをする際に、花を選ぶ基準って何ですか?
現実的な話をしてしまうと、予算とクライアントさんの要望で大体は決まっていきます。
現場では「花の表情を見て」選んでいくことが多いです。
なんというか、花や葉の向き・付き方、枝振(枝の形)を観察する感じですね。
生き物なので全く同じものはなくて、左右の向きの違いや、硬さ、器のサイズに対してどの程度カットするかみたいなことを、一つ一つ違うアプローチをしていかなきゃいけないんですよね。
こういうのをその場で瞬間的にやっていくんですけど、正直言語化できるものというよりは、感覚的なものに近いので「表情を見る」っていうアバウトな表現が合ってると思います。
ーこの仕事の大変な部分はどんなところでしょうか?
この仕事は「生き物を扱う大変さ」があると思います。
お花屋さんにあるお花たち、あれって切って水につけているだけじゃないんですよ。
維持管理に、目に見えないコストがかなりかかってる。
例えば、以前生け込み用(フラワーアレンジメントの一種)に仕入れた松の枝は、円形や波のような形になるまでに10年かかったものを使ったりしています。
少し大げさかもしれませんが、ただ、完成までの過程が見えない分、そこを理解してもらえないと歯がゆい気持ちになることは正直あります。
逆に言えば、世に出ている有名なデザイナーさんはそういう「行間」を伝えるのが上手いんだと思います。価値づけに大事なのはストーリーを伝えること。どう見えるかだけではなく、なんでここに在るのか。
職人気質になりがちな業界ですが、そこは自分も頑張ってきたいと思ってます。
ー今後のビジョンはありますか?
やっぱりゆくゆくは実家の店を継ぎたい。
東京で学んだアレンジメントの知識を持ち帰って、地元でもそれを浸透させていきたいと思ってます。
実感として、東京では花に対する価値観が変わってきていること感じます。
たとえば、昔はお供えに使われていたような花でもアレンジメントに採用します。
ただ、地方ではその価値観が浸透するのが遅かったりする。お店よるとは思いますけどね。
古き良きものと新しいものを掛け合わせてアレンジメント出来たらいいですね。
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