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アンドロイド転生819

2118年7月5日 夕方
ロンドン:大通り

リョウの腕を掴んでいるのは白人の女性だ。2人は顔を見つめて目を丸くした。4日前に騙されるところだった彼を助けてくれた女性だった。女性は呆れたように頭を振った。

「何してるのよ。気を付けてって言ったでしょ」
「あの…い、今の人も詐欺なんですか?」
「そうよ。その場でペイを払えなんて言うのは詐欺なのよ。で、日本人がターゲット」

女性はリョウから手を離した。2人は逃げて行った老人の背を見つめた。弱々しかった老人は背筋を伸ばして元気に歩いて行く。怪我がなくて良かったとリョウは思った。

リョウはじっとスマートリングを見つめた。これで操作をすれば簡単にペイが振り込まれる。それを狙って騙す奴がいるのか…。でも何で俺が?そんなに隙があるように見えるのか?

「僕がなんで日本人だと分かるのかな…」
女性はじっとリョウを見つめた。目元が下がり頬が緩んだ。さもおかしそうに笑い出した。
「だってノーテンキな顔をしているもん!」

リョウは呆気に取られた。
「能天気…」
「そう!うちのお父さんにそっくり!ね?助けたんだからお礼して。dinnerをご馳走して」

リョウは益々目を見開いた。女性と食事をするのか!俺が?いつ?え?今?え?2人で?リョウは何と応えて良いのか分からなかった。全身から汗が吹き出した。身体が銅像のように固まった。

女性はニコニコとしている。
「私の名前はミア。漢字で美しく愛するって書くの。素敵でしょ?お父さんがつけたの。私のお父さんは日本人。お母さんはイギリス人」

そうか。どう見ても白人に見えたがハーフなのか。そう言えば…ほんのりと東洋の趣きもプラスされている。ミアと目が合う。彼はハッとなった。女性をじっくりと見たのは初めてだった。

慌てて俯いた。俄かに緊張して来た。
「そ、そうですか…お父さんが日本人ですか。だから日本語が上手なんですね」
「ね、早く行こう!私お腹が空いた!」

リョウはどうして良いのか分からない。
「え…でも…何を…食べれば…」
「何でもいいよ!あ!近くにオススメのお店があるよ。お酒は飲める?」

リョウが頷くとミアは嬉しそうな顔をして歩き出した。リョウは覚悟を決めた。大丈夫だ。何とかなる。この人はキリだと思えば良い。キリはリョウの従姉だ。彼女だと思えば気が楽だ。

5分後。ミアとビールで乾杯していた。緊張で喉がカラカラでリョウは一気に飲み干した。ミアはホログラムのメニューを見ながら次々とタッチした。やがて食事がやって来た。

パイ料理やローストビーフ。野菜の盛り合わせなど。ミアのお勧めだけあって確かに旨かった。2人はビールの後はワインにした。酔いが回ってリョウの緊張もほぐれて来た。

リョウはニンマリとなった。キリとタカオが知ったらビックリするな。この俺が女の子と食事をしているんだからな。ホントに人生って分からないもんだな…。そう。全くその通りである。

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