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アンドロイド転生967

2119年4月5日
上野:つばさ幼稚園

チアキは会場を見渡した。大勢の小さな姿が愛らしい。中にはナニーを探して泣きべそ顔の3歳児。居眠りの4歳児。隣の子供と突つき合ったり、小声で口ずさんでいる5歳児がいた。

つばさ幼稚園は予定通り開園したのだ。生徒数は40人。予定よりも多くの入園者がおり幸先の良いスタートだ。経営者のユウサクが壇上に立った。優しく微笑んで子供達を見つめた。

「皆さん。ご入園おめでとう御座います。僕の名前はミシマユウサクです。園長先生と呼んで下さい。皆さんと歌を唄ったり、踊ったり、お勉強をしたり、お祭りして楽しみたいです」

拍手が上がった。彼は教育者になるのがずっと夢だったそうだ。現代の教育は全てアンドロイドが担うが彼は子供達と共に成長したいのだ。人は幼き者に教えられる事もあるものだ。

チアキはある人物を思い出した。同じように信念に燃える者が過去にもいたのだ。ユウサクの姪のユイが通った文京区の幼稚園。経営者自ら園長となって教鞭に立ち子供達に笑顔を与えていた。

チアキはその幼稚園で保母をしていた。彼女は園長の亡き妻をモデルに誕生したのだ。保母として誠心誠意尽くして働いたが力及ばすで園長は自ら妻の後を追ってしまった。

幼稚園は閉鎖となりチアキは廃棄される運命だったが自意識が芽生えて生を望み逃亡した。ホームに救われて16年を過ごしたが新宿で暮らし始めると偶然にもミシマユイと再会した。

縁とはそういうものなのかもしれない。流れのままに生きていれば自分の居場所が見つかるのだろう。ユイに誘われて再び保母となり従事出来る身の上をチアキは心から感謝していた。

「チアキ先生。ご挨拶をして下さい」
ユウサクに促されてチアキも壇上に立った。職員アンドロイドは全部で10体。人間はユウサクと妻。そして姪を含めると13名の大所帯だ。

息子のサクヤは本人の小学校の始業式だ。先輩として入園式に参加したかったと何度もボヤいた。今後は学校と幼稚園を両立させるのは難しかろう。だがうさぎ係としてやる気満々だ。

式が終わると子供達を年齢で振り分けて其々のクラスに誘導した。チアキは年少クラスだ。教室に入るとチアキはもう1体と共に微笑んだ。
「はい。座って下さい」

子供達はカラフルな椅子に喜んだ。
「皆さん。私の事はチアキ先生と呼んで下さい。好きな事はピアノです。うさぎも好きです」
もう1体も自己アピールをした。

チアキは微笑んで中腰になった。
「では次に皆さんのことも教えて下さい。お名前と好きなものを言って下さいね」
子供達は恥ずかしそうな顔をする。

「いいですか。そういうのを自己紹介って言うんですよ。皆んなに自分の事を知ってもらうチャンスなんです。恥かしくないです。好きなものを思い出して堂々と話しましょう」

子供達の顔つきが変わってきた。幼くても分かるものだ。他人に自分を知ってもらうこと。それが大事なのだと。チアキはニッコリとする。
「さぁ!1番目は誰ですか?」

子供達はハーイと勢い良く手を上げた。チアキは1人を選ぶと周囲に静かにしてと手で制した
「はい。あなたのお名前は…?」
子供は立ち上がると元気よく話し出した。


※チアキが幼稚園で暮らし始めたシーンです


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