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アンドロイド転生861

2118年8月20日 朝
新宿:平家カフェの店の前

「行って来ます」
チアキは家族を見渡した。店主夫婦とリツとアリスだ。今日からチアキは上野で暮らす。幼稚園経営を始める一家の手伝いをするのだ。

経営者のミシマユウサクはチアキを戦力として必要としており、是非にと望んだ。元園児で教え子だったユイの叔父にあたる。彼は経営だけでなく園長として教育に携わるそうだ。

チアキの胸は希望に溢れていた。元保母として力が発揮出来る。多くの子供達の笑顔が見れる。成長を見守れる。共に歩めるのだ。こんな機会がまた訪れるとは夢にも思わなかった。

店主が朗らかに送り出した。
「チアキ。たまにはここに戻って来いよ。名目上は俺が契約者なんだから」
「はい」

TEラボから逃亡し、その存在を抹消されたチアキに所有者も契約者もいないのだがミシマ氏には便宜上そのように振る舞っている。逃亡したなどと言う必要はないと判断した結果だ。

アリスの瞳が潤んでいた。同じアンドロイド同士…姉妹のような存在のチアキが去ってしまうのは寂しくて堪らないようだ。アンドロイドには泣くと言うプログラムが搭載されている。

「チアキ…元気でね。応援しているね」
「アリスも。リツと仲良くね」
アリスとリツはマシンと人間でありながら恋人同士である。現代社会はフレキシブルなのだ。

チアキは歩き出した。何度も振り返って手を振った。幼稚園までは新宿駅に行きリニアモーターカーに乗って上野駅で降りる。駅から徒歩10分の目的地までトータル40分だ。

チアキの内側で通信音が鳴った。応答すると、元園児のミシマユイだ。ユイの画像が浮いた。
「先生。出発した?」
「はい」

ユイは満面の笑みだった。彼女も共に働くのだ。ユイの立っての希望なのだ。チアキが従事した幼稚園の素晴らしさを誰よりも体現している。叔父の理念を応援したいのだ。

ユイの画像に少年が割り込んできた。彼女の従姉弟のサクヤでユウサクの息子。10歳だ。
「先生!上野の駅まで迎えに行こうか?」
サクヤもチアキを先生と呼ぶようになった。

大丈夫だと答えたのに迎えに行くと言う。エネルギーが溢れてじっとしていられないらしい。元気なサクヤはこちらもパワーが貰えそうだ。
「では…お願いします」

約40分後。チアキはサクヤと共に上野の『つばさ幼稚園』に到着した。経営者のミシマ夫妻と姪のユイ。執事のカゲヤマが出迎えた。
「チアキ先生。よく来たね」

ユウサクもすっかりチアキの呼称が先生になってしまった。恐縮してしまう。
「僕の事は園長先生。妻はトモミ先生。ユイも先生だ。サクヤはサクヤでいいよ」

サクヤは頬を膨らませた。
「えー。僕も先生がいい」
「じゃあ…お前はうさぎ係の先輩だ」
「分かった!」

チアキは微笑んで頭を下げた。
「皆様。とても嬉しいです。精一杯務めます。どうぞ宜しくお願い致します」
今日からこの人達が家族だ。

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