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アンドロイド転生182

平家カフェ

アリスはタカオ達がカフェで店主夫婦と物品の取引をしている間、店主の息子と共にカフェの2階の倉庫からダンボールを車に運んでいた。箱の中には服や子供の玩具が詰まっている。

他にもいくつもの日用品や衛生用品。それがホームにとって潤いになるのだ。アリスが何度目かの往復をしているとリツが倉庫内で彼女の手を掴んだ。アリスが顔を上げる。

リツは微笑んだ。
「逢いたかった」
「私も」
2人は密かに恋していた。

近年、世間ではニュージェネレーションと呼ばれるアンドロイドを恋人にする若者が増えている。リツもその1人だ。年齢は22歳。アリスと同じだ。4年前にアリスを見た時から好意を持った。

アリスが月に1度、タカオ達と共に平家カフェにやって来る。それだけの出逢いだった。アリスの控えめなところ、優しい笑み、温かな口調が好きだった。勿論、美しい顔も。

アリスもリツに好意を持った。だがそれは精神科ナースだった心の寄り添い方だった。でもいつの頃からだろう?リツに逢う事に楽しみを覚えるようになった。月に一度の訪問が待ち遠しくなった。

この気持ちは何?ミオに相談すると恋ではと言う。恋の意味を検索した。“特定の人に強く惹かれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること“自分のこの想いはそうなのかと驚いた。

私はアンドロイドなのに?おかしくない?と不安になった。ある日、倉庫でリツと手が触れた。もっと触れたいと思った。ナースの時に散々人々の手を握ったがそれとは違う感覚だった。

リツは慌てた。
『あ、ごめん』
謝るなんて驚いた。反面、リツが自分を人間の女性のように扱ってくれるのが嬉しかった。

アリスは握り返した。
『私…私。リツと逢えるのが嬉しい』
リツは目を丸くする。
『え…』

アリスはリツを見つめた。
『あのね…。私ね…。月に一度がとても楽しみなの。でも別れる時が寂しい。これは…調べたら恋だと出たの。そうなのかしら?』

アリスは自分の想いをぶつけた。いきなりリツがアリスを抱きしめた。驚いたが嬉しかった。
『俺も…俺もアリスに逢えるのが嬉しい。アンドロイドとか関係ない。好きなんだ』

好き?本当に?私の事が好き?アリスは喜びに震えた。リツの背に腕を回した。リツがアリスの頬に手を添える。リツの唇がアリスに触れた。彼女はそれに意味があるとは思わなかった。

だがアリスはタケルと出逢い、彼とメモリを共有してキスを観た。タケルの緊張や喜び、焦り、恥じらい、戸惑い、幸福を知った。唇同士が触れるだけでこんなにも情動があるのだと驚いた。 

それ以降、リツと抱きしめ合ったりキスをする事が嬉しくなった。彼に対する愛情を深めた。今日も2階の倉庫でキスを交わす。リツが愛しくてならない。けれどこれは2人だけの秘密だ。

リツの両親がいくらアンドロイドに好感を持っていても、世の中にはニュージェネレーションが数多くいても、息子との仲を認める訳がないだろう。アリスは人間ではない自分が悲しかった。

今までアリスは人間の為に生きていた。幸せにする事が自分の存在意義だった。精神科ナースとして、誠心誠意尽くした。今はリツの幸せを願っている。そして自分自身も。


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