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アンドロイド転生35

回想 2020年8月

アオイとシュウは正式に付き合うことになった。ミナトは姉の幸せを喜び、互いの両親は笑顔を見せ、家政婦は小躍りした。誰からも祝福された。そして季節は春から真夏へと巡った。

ビストロで食事をして2人は手を繋いで歩いている。アオイは突然立ち止まった。繋いだ手に力が入った。シュウは驚いて振り返った。
「帰りたくない…」

ワインをグラス2杯飲んで、アオイは勇気づけられた。初めてキスをしてからもう4ヶ月。いつしかもう一つのステップを越える事を夢見るようになっていた。だって私は23歳。大人になりたい。

会う度に覚悟を決めているのにシュウは一向に階段を上ろうとしない。いつ事を起こすのかと毎回思うのだが今日も駅に向かっている。やっぱり…家に帰ろうとしている…。

ヒナノに相談をするとアオイからの言葉を待っているのでは?と言われた。だから今、その一歩を踏み出した。全身から汗が吹き出していた。確かに真夏だがそれだけじゃない。緊張だ。

2人に無音の時が流れた。人々が追い越して行く。熱気がアオイを包む。身体が熱くてまるで内側からも放出しているようだ。彼女の胸は期待と緊張と気恥ずかしさで高鳴った。

シュウがアオイの肩を抱いて歩道から離れビルの隅に寄った。
「アオイを大事にしたいんだ」
真摯な目だった。

アオイは上目遣いになった。
「分かってる。でも…私…あの…だから…。いいの。シュウちゃんなら…」
頬が熱を帯びて朱に染まった。

シュウは頷いた。
「…じゃあ、家族にちゃんと連絡をしよう」
「えっ?」
アオイは目を見開いた。

え?親に連絡するの?今から…って?頬に緊張が走る。な、なんて言えばいいの…?
「電話して。代わるから」
「う、う、うん…」

シュウの直向きな目が今まで見たことのない大人の男だった。アオイは戸惑った。どうしよう…。でも、でも。私は決めたのだ。階段を上ると。今日。アオイはバッグから携帯を取り出した。

深呼吸をして母親にコールする。
「もしもし?ママ?あ、あのね?今日、今日ね?あの…その…。わ、私…帰らないから!いいでしょ?うん。そう。シュウちゃんと一緒」

シュウが手を差し出した。
「シュウです。はい。一緒です。一晩お預かりします。はい。明日の朝ちゃんと送ります。それでは…。はい。失礼します」

アオイの胸の鼓動は益々早くなった。一晩…お預かりします…。一晩…。シュウはアオイに携帯を返す。
「マ、ママ…なんだって?」
「分かりましたって」

分かりました…。そうなのね?良いのね?アオイは覚悟を決めた。シュウはアオイを見つめると手を掴んで歩きだした。2人は黙って歩いた。彼の足に迷いはなかった。

アオイは握られた手を見る。子供の頃から何度となく繋いだ手。いつの間にかシュウの手は大きくなった。背も高くなった。私達は変わった。そして…これから変わるのだ。

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