アンドロイド転生61
回想 2040年12月28日 深夜
室内の電話が鳴った。カノミドウシュウは目を瞬かせ、ベッドから起き上がると時計を見た。午前1:38。受話器を持ち上げた。
「ハロー?」
日本語の声が響いた。
「もしもし!フロントです!日本が大変な事になりました!地震です。大地震です。直ぐにテレビを点けて下さい!直ぐに!」
シュウは起き出したユリコに目を向けた。
「日本で地震が起きたらしい」
シュウは立ち上がり、リビングに行くとテーブルに置いてあるリモコンを取って電源を入れた。
黒人のスーツを着た女性が、緊迫した顔で日本の地震について伝えていた。ドローンからの中継で地上が映し出されている。暗闇に赤い光が見える。火事だと分かった。
「どんな感じ?」
ユリコは息子のタクミの様子を見に行った後、シュウの傍にやってきた。
「分からない。あっちも夜だな。8時半らしい。電話をしてみよう」
シュウは何人かの役員の携帯を鳴らすが、コール音もしなかった。切ると直ぐに電話が鳴った。大阪支社の役員のキミシマからだった。ホッとして繋いだ。キミシマの悲痛な声がした。
「ふ、副社長!大変な事になりました!地震が起こったんです!震度9強だそうです!」
「震度9?」
シュウは驚愕した。
「東京、横浜、千葉、埼玉の誰とも連絡が取れません!だ、誰ともです…!ふ、副社長はどちらにいらっしゃるんですか!」
「ハワイだ。今朝来た」
キミシマはホッとしたように声を和らげた。
「じゃあ、ご家族も一緒なんですね?」
「妻と息子は一緒だ。でも父達は来ていない」
「ええ?社長は一緒じゃないんですか!」
シュウはテレビ画面を見続けた。煙で視界が悪いようで低空の撮影が出来ない。高度が上がり、全体を撮すが闇に包まれ赤い光が見えるだけ。まるで爆弾投下だ…。嫌な予感がする。
被害の程度が分からない。不安な気持ちになる。両親は無事だろうか。義理の両親も。
「ああ、日本に残っている。どんな状況かこっちもテレビのニュースで観ているだけだ」
「そ、そうですか…」
「暗くてよく分からないんだ」
「夜の8時2分に起こりました。兎も角、色々電話して確認してみます。一旦切ります」
シュウはユリコと顔を見合わせた。2人とも言葉が出なかった。今日は日本時間2040年12月28日。昨日仕事納めをして、そのまま成田空港のホテルに一泊し、朝の便でハワイにやってきたのだ。
「大阪からだった。東京、横浜、千葉、埼玉の誰とも連絡がつかないらしい」
シュウはユリコに伝えると、両親の携帯と自宅を鳴らしたがコール音さえしなかった。
ユリコの声が震える。
「フ、フロントに電話をしてコーヒーでも頼みましょうか。眠気覚ましに…」
シュウは頷いた。長い夜になりそうだ。
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