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アンドロイド転生69

2103年3月
タカミザワ邸

「Happy birthday!モネ〜!」
サクラコは娘の代わりに蝋燭の炎を吹き消した。モネは1歳になった。病気もせず健やかな成長を見せている。大勢の客が満面の笑顔で拍手した。

「カー!カー!あー!」
モネはアオイを見上げてケーキを指差した。アオイの別名のサヤカをカーと呼ぶようになった。
「はい。カーですよ。頂きましょう」

執事アンドロイドのザイゼンが優雅にケーキを切り分けた。モネはぎこちなくスプーンを握ってケーキを頬張った。1人で食べるようになるなんて…とアオイは感激する。だがそのうち手掴みを始めた。

モネの顔がクリームだらけだ。口の中に紅葉のような手を突っ込む。そんな姿も愛らしい。アオイは手を出す事もなく目を細めて見つめた。良いのだ。一歩ずつ成長してゆけば。

食べ終わるとサクラコがモネを抱いてテラスに連れて行った。陽光がモネの産毛に反射する。庭の桜がその可憐な花弁を広げていた。サクラコは娘を見て花を指差し白い歯を光らせる。

1年前の今頃。アオイは春に死に、春に生き直した。80年という時を越えた。感慨深いものがある。当初は運命を呪い寂しくて泣いてばかりの日々だった。だがモネの存在が救いになった。

明るい主人のサクラコと、労ってくれる同僚のザイゼン。理解ある友人のサツキ。シュウの曾孫のトウマとの出会い。平和な毎日。…ねぇ?シュウ?私ね、何とかやってるよ。1年経ったよ?

アオイは澄み渡る空を見上げた。あなたはどこにいるの?風になったの?私はアンドロイドになったのよ。子守が生きる道になったの。相変わらず泣き虫だけど、頑張ってる。応援してね。

「今日も寂しいですか?」
ザイゼンがアオイの横に並んだ。アオイはチラリと彼を見て軽く頷いた。
「今も時々寂しいです」

アオイはサクラコとモネを見つめた。人々に囲まれて2人は笑顔を振りまいている。
「でも温かいです。あの人達が笑うと」
「そうですね。本当に」

ザイゼンも主人を見つめ満足そうに微笑んだ。
「少し前まではこの家は私とサクラコ様の2人だけでした。10年間です。そしてモネ様がご誕生し、サヤカさんがやって来て賑やかになりました」

ザイゼンはアオイに目を向けた。
「たとえ私達がマシンだとしても、私は同じ屋根の下で暮らす家族だと思っています。あの方達と同様にサヤカさん、あなたの幸せも願っています」

アオイは喜びで胸が一杯になった。彼はとてもマニュアルだけで言っているように思えなかった。
「有難う御座います。今とても幸せです」
そうだ。私には…家族がいるのだ。

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