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アンドロイド転生119

2114年3月9日(別れまで2日)
ショッピングモール

アオイとサツキは食料品の買い出しに来ていた。子供達は学校だ。フードコートで2人は水を飲んでいた。1日200㎖の水分のお陰で肌に保湿力が生まれるのだ。カノミドウ製薬の研究の賜物だった。

「サツキさん。明日はモネ様の12歳の誕生日会!絶対に来てね!」
「はい。必ず行きます。ハル様もナツ様も楽しみにしています」

アオイはじっと親友の顔を見つめた。人間だとかアンドロイドとか関係がない。サツキは心の友だ。アオイは深呼吸すると姿勢を正して畏まった。いつになく神妙な顔付きになった。

「サツキさん。私は明後日の朝、TEラボに行きます。そこで廃棄されます」
生が終わると思うと怖かったけれどアオイはもう既に覚悟を決めていた。

サツキも神妙な顔をした。
「分かりました」
「この12年間、本当に有難う。いつも話を聞いてくれて凄く嬉しかった。ホントよ」

アオイはサツキの手を握った。
「サツキさんがいたから日々が救われたの。友達になってくれて有難う。ううん…お姉さんみたいだった。いつもいつも私の力になってくれた」

サツキもアオイの手を握り返した。
「姉妹と思ってくれて嬉しいです。まるで人間になったみたいです。サヤカさんと出逢った事で私は多くを知りました。感謝しています」

アオイは瞳が潤んできた。ああ。私っていつも泣いてばかりだ。甘えられる存在がいてどんなに頼りになったかを言葉に尽くしても足りないくらい。サツキと出会えて本当に良かった。

「シュウの事も相談に乗ってくれて有難う。結局は打ち明ける事は出来なかったけれど、やり切った感はあるの。サツキさんが色々とアイデアを出してくれたからだよ?縁って言ってくれたからだよ?」
「有難う御座います」

アオイはショッピングを楽しむ人々を眺めた。
「まさか、自分が死んで…生まれ変わるとは思わなかった。80年もの未来で、最初は本当に怖かった。不安で堪らなかったの。私は凄く弱虫だから」

サツキは首を横に振った。
「人間が違う生に生まれ変わった事はとても難儀だったでしょう。でも、サヤカさんはモネ様を立派に育て上げました。弱虫ではありません」

モネの事を思うと我慢が出来なくなった。アオイの瞳からポタポタと涙が落ちた。サツキに立派だと言われ誇らしい気持ちと同時に別れを実感して悲しみが襲って来た。ああ。モネ様…。

「サツキさんはナツ様のお世話があるね。あと1年半だね。その間、どうかモネ様を見守っていてね」
「モネ様は素晴らしいお嬢様です。立派にお育ちになります」

アオイは泣き笑いの表情になる。
「ハル様もナツ様も本当に良い子だよ?サツキさんのお陰だよ!」
「有難う御座います」

2人の近くを幼児を連れたアンドロイドが横切った。アオイはその子供を見つめモネの幼い頃を思い出す。ああ、あんなに小さかったのに…。もう12歳。時は本当に早い。あっという間だ。

モネは健やかに愛らしく成長した。この喜びを家族で皆んなで分かち合うのだ。自分の泣き顔でパーティを台無しにするわけにはいかない。明日は笑って過ごそうと心に決めた。

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