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アンドロイド転生230

白水村:エリカの部屋

アオイ達がサツキを救いに行く前日のこと。エリカは部屋に1人でいた。同室のアリスは仕事中だ。誰も来る心配はない。エリカはサツキが製造されたランドラボのカスタマサービスにコールした。

『はい。ランドラボで御座います』
「逃亡を企てているアンドロイドの事でご報告があります。責任者に繋いで下さい」
『は、はい。お待ち下さい』

すぐに男性に代わった。
『逃亡をするようだとお聞きしたのですが?』
エリカはニヤリとする。
「ええ。明日です。名前はタカハラサツキです」

男性はデータベースをチェックした。
『確かに…タカハラサツキはうちのマシンで…明日ラボに戻る予定になっています』
「別のラボのアンドロイドが手助けをします」

『それは…本当の事ですか…?』
男性の口調が不信感を表す。エリカは頷いた。
「ええ。主人の目が離れたら逃げ出す算段です。宜しいんですか?放置しても?」

男性は暫く思案した。
『ご連絡を有難う御座います。派遣先のお客様には…アンドロイドの主人には…この件はお知らせしませんが見送るように頼みます。ラボで捕まえます』

エリカは薄く笑った。
「アンドロイドは2体とも捕まえられますか?」
『別のラボであっても逃亡は人間に対する反逆行為です。捕らえます。ところで…あなた様は?』

エリカは名乗るつもりなどなかった。
「私は正義の味方です。では、これで」
『お、お待ち下さい…!』
エリカは満足して通話を切った。

アオイはホームにいらない。そして自意識の芽生えのないサツキもいらない。ラボは捕らえてくれるだろう。一緒に行くチアキは大丈夫だ。柔術があるのだ。きっと無事にホームに帰ってくる。

私の行いは正義だ。アオイはホームでは役立たずだ。反抗して夜の狩をしない。そんな善人ぶってる様が不快で堪らなかった。罪を犯したくない?何て偉そうなの?何て邪魔臭いの?

エリカはアオイが元人間だと知ってからその存在に脅威を覚えた。自分とは違うのだ。そして同じ人間の心を持っているタケルと繋がる事を恐れた。だから2人には接点を持って欲しくなかった。

だってタケルを愛しているから。彼の強さ、儚さ、優しさに惚れた。タケルは私を救ってくれた。生きる道筋を与えてくれた。希望が生まれた。だから…アオイはダメ。絶対にダメ。

意地悪をしてアオイが大事にしているネックレスを隠した。なのにアオイは私を許し、ネックレスはルイが見つけた事にした。皆んなが幸せになった。そんな鮮やかな手際の良さも腹が立つ。

アオイがホームにやって来て1年半近く経った。毎日が楽しそうだ。タケルとは接点はないので安心しているが、それが油断かもしれない。人間はいつ何時心が変わるかもしれないのだ。

タウンで暮らした時、主人はたった3ヶ月で私を捨てた。あんなに愛されていたのに。タケルもアオイも心が彷徨うかもしれない。2人は愛し合うようになるかもしれない。それが人間なのだ。

だったら、私がアオイを捨てよう。ホームから追い出そう。ランドラボが捕まえてくれれば、何もかもうまくいく。エリカは自分の手際の良さに満足していた。知らず知らず微笑んでいた。

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