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アンドロイド転生743

2118年5月15日
エリカが逝って数日後

クラウド。直訳すると雲。膨大な情報を保存する場所。だがそれよりも強固な位置にあるヘブン。イヴにも手出しが出来ない。そこにアンドロイドのゲンが作ったプログラムがあった。

それはアンドロイドに警告音と言う地獄の責苦を与えるウィルスプログラム。しかし8日前にターゲットを見失ってしまった。ミオはコピーされたが僅かにメモリが書き換わった為である。

ウィルスはミオを別人だと判断した。だからミオが新しい身体に移植されても追尾が出来なかった。リョウの閃きが勝利したのだ。だがウィルスは執拗にターゲットを追う。

ミオのメモリから発生しうる天文学的なパターンをシュミレートして一致する個体を探索したのだ。そしてついにミオを発見した。彼女がどんなに変化しようとも逃しはしなかった。

何があっても命令を完遂するまで動くのだ。そう。ターゲットのメモリにファイルを落とし、時間制限を設けて解凍し発動する。そして警告音を鳴らすのだ。それがウィルスの役割。

ミオのメモリにプログラムが落ちた。直ぐにカウントダウンが始まった。相手がどんなに悲しもうが、苦しもうが関係はない。ターゲットが何度変化しても同じ事を繰り返すだけだ。


同日同時刻
白水村の集落:中庭 

「よし。夕方…電話をしよう」
リョウがハスミエマに謝罪の電話をしようと決意して中庭から去って、いつものようにリペア室に到着しキリと挨拶した頃。

ミオはチアキと共に洗濯物を干していた。青い空に白い雲が清々しい。気分は爽快だ。新しい身体は直ぐに馴染み、鏡を見ても違和感がなかった。何よりも美人なのが嬉しい。

ミオはバスタオルを掴んで思い切り広げた。その時が訪れた。彼女の内部にファイルが作られ、直ぐにイヴがウィルスだと通信してきた。ミオは驚き叫んでタオルを落とした。

アンドロイド全員とリペア室にいるキリとリョウもイヴからの報告を受けた。誰もが驚愕して凍りついた。まさか…!またウィルスが落とされるとは…!信じられない…!

リョウは愕然となり、直ぐにデスクを叩いた。
「く、くそ!追うなんて…!ミオを変化させてコピーしたのに、なんて執念深いプログラムなんだ…!悪魔だ!畜生!!」

ルークはミオの場所に駆けつけた。ミオと一緒に作業をしていたチアキは呆然と立ち竦んでいた。ミオは芝生に座り込んでおり、虚空を見つめていたがルークに顔を移し声を震わせた。

「カウントダウンを始めている。タイムリミットは30分だけなの…。もう…間に合わない…」
ルークは恐る恐るミオに近付きしっかりと彼女を抱き締めた。ミオはハラハラと涙を溢した。

最初は48時間からカウントダウンを始めた。ヘブン(クラウド)からウィルスプログラムが落とされる度にどんどん短くなってくる。これではとてもデリートする時間などない。

アンドロイド達が庭にやって来た。嗚咽を上げるミオをただ見つめるしかなかった。なんて無力なのだろう…。一陣の風が吹き抜けた。5月中旬の若葉の季節。子供達の笑い声が耳に届いた。

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