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アンドロイド転生278

深夜 カノミドウ邸

タケルがダイヤモンドを返却して書斎から戻って来た。トウマを見て少し怯んだ。どこからか鐘の音が聞こえた。24時だ。新年を迎えたのだ。まさか年を跨いでここにいるとは想像もしなかった。

「あ、明けましておめでとう」
アオイは思わず口にした。
「呑気に挨拶かよ?」
トウマが鼻で笑った。

トウマがタケルを見た。
「仲間はいくらでもいるんだな。アンドロイドがなんでこんな事をしてるんだ?
「私達は自由になったの」

トウマは呆れたようにまた鼻で笑った。
「自由になってこれからも盗みをするのか」
「それは分からないけれど…あなたの家のダイヤは返したわよ。だから内緒にしてね」

「アオイ。行くぞ」
「はい…。じゃあ…私達は行くね。シュ、シュウに宜しく伝えてね」
「アオイ!」 

振り向くと、サーバールームの入り口に杖をついたシュウが立っていた。アオイは目を見開く。
「シュウ…!」
「なんで、また来たんだ?」

トウマが鼻で笑った。
「ダイヤを返しに来たんだってよ」
「シュウちゃん…」
「アオイ…」

ああ。シュウ!また逢えるなんて!アオイは神に感謝をしたくなった。シュウは何歩が進むとよろけた。アオイは駆け寄りシュウの身体を抱きとめた。また彼に触れられるとは思いもしなかった。

アオイはシュウを見上げた。
「大丈夫…?」
「大丈夫だ」
ああ。彼はすっかり老いてしまった。もう120歳を越えているのだ。いつ何があってもおかしくない。

「祖父ちゃん。ダイヤ以外にもピストルがあるらしいぞ。親父達は一体何をしているんだろ?」
「な、何だって?」
アオイが頷いた。

タケルが声を掛ける。
「アオイ、行くぞ」
行きたくない。もう2度と逢えないのだ。だが今日もまた少しでも逢えたのなら満足すべきだ。

「シュ、シュウちゃん…。私ね?今ね?子供達の面倒を見てるの。私達、沢山の子供を産もう、育てようって決めてたよね。それは叶わなかったけれど、でも子育てをしてとても幸せだよ」

シュウは何度も頷いた。幸せならそれで良いと言う顔つきだ。アオイはじっとシュウを見た。
「それにあなたにまた逢えたんだから本当に良かった。生まれ変わった意味はあるね?ね…?」
 
アオイの瞳に涙が滲む。
「死んじゃってごめんね…」
「守れなくてごめんな」
タケルが厳しい顔をした。
「アオイ!行くぞ!」

アオイはゆっくりシュウから退いた。
「じゃあ…じゃあ…本当に行くね。逢えて良かった。身体…大事にしてね。元気でいてね」
「アオイもな」

シュウの手がアオイの頬から離れた。シュウは虚空を掴んだ。アオイの瞳から涙が零れ落ちた。身を翻すと部屋を出て屋敷を後にした。今度こそ…今度こそ。さよならだ。さよなら…シュウ…。

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