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アンドロイド転生37

回想 2021年12月24日 夜
都内某所:高級レストラン

今宵は歴史上のあの偉大な人物の誕生を迎える聖なる日。イルミネーションは輝き、赤と緑が街中に溢れた。そして誰もが幸福そうだ。寒くても心は温かい。ここにも特に熱い2人がいた。

シュウは上着のポケットにそっと手を触れ、四角くて固いその感触を確かめた。中には小さな光。だが大きな意味を持つ。間もなくその姿を現す。この日の為に吟味して選んだ。

アオイが化粧室から戻ってきた。彼女の頬は朱に染まり瞳が輝いている。給仕が丁寧に椅子を引きアオイは腰を下ろした。給仕は恭しく囁く。
「デザートをご用意致します」

よし。シュウは息を吸い込んだ。頬が緊張していた。ポケットから箱を取り出すとアオイの前に置いた。シュウが蓋を開くと、アオイは目を落とした。輝く光が彼女の双眸を貫いた。

シュウの直向きな眼差し。
「一生を共に歩んで欲しい」
アオイは驚いていた。
「シュウちゃん…」

「年齢的に早いかな、って思ったんだけど…でもアオイと一緒に歩みたいんだ」
シュウは指輪を取り上げた。
「結婚して下さい。必ず幸せにします」

アオイは慌てて手を差し出す。
「はい。はい…!宜しくお願い致します」
指輪はアオイの薬指に嵌った。その輝きは所有者を得て自信に満ちていた。

26歳と24歳の恋人達は今から婚約者になったのだ。見つめ合って笑顔を交わした。周囲の人がチラチラと2人を眺めて微笑んだ。中には小さく拍手する者もいた。彼らの門出が嬉しそうだ。

給仕がやってきて落ち着いた声で囁いた。
「おめでとう御座います。デザートをご用意する前に、ささやかですが当店からのお祝いで御座います。どうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ」

食後酒がテーブルに丁寧に置かれた。2人は店の配慮に感激して頭を下げた。飲み物は甘口のデザートワインだ。甘い2人には相応しい。グラスを持つアオイの滑らかな手に愛が輝いていた。

シュウはアオイを見つめた。なんて綺麗になったんだろう。子供の頃から知っているのにいつの間にか女性になった。その柔らかな頬、輝く瞳、光る唇。何があっても守ると誓った。

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