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アンドロイド転生757

TEラボ

TEラボのフクイ主任は満足そうに微笑んで廊下を歩いた。本当は踊り出したい気分だった。やっと研究が日の目を見たのだ。鼻歌を唄いながら研究室の扉をスライドした。

研究員6名が即座に振り返った。期待に瞳を輝かせている。フクイの顔色を察して全員が口元を綻ばせた。万歳やガッツポーズをして喜びを表す。誰もが達成感を覚えていた。

「主任。如何でしたか?」
助手で主事のシンドウアキコはフクイの口から朗報を聞きたかった。
「さっさと特許を取ろうと言ったぞ」

役員達は特許出願にゴーサインを出したのだ。アキコは勿論、研究員達も手を叩いて喜んだ。彼らは数年前からエムウェイブの研究をしていた。今迄の努力がやっと報われるのだ。

アキコは2ヶ月前から俄然やる気になっていた。新宿歌舞伎町でアンドロイドが暴走したとニュースを聞いた時はあまりの被害者の多さに心を痛めると同時にこれは勝機だと思った。

案の定、エムウェイブに白羽の矢が当たったのだ。アキコも研究員も一丸となって取り組んだ。そして製品の有効率を100%まで上げたのだ。必ずや日の目を見ると信じていた。

退屈だった仕事が楽しくなって来た。それまでは早期退職を目論んでいた。45歳で独身の彼女は数年後にはマレーシアに移住すると決めていた。その為には軍資金が必要だ。

後ろ暗い事に手を出した事もある。TEラボの廃棄アンドロイドの横流しに加わったのだ。月に一度、同じような金を求める同僚と廃棄したマシンをこっそりと売っていた。

買主は不明だがそんな事はどうでも良い。金さえ手に入れば問題ない。スイス銀行にかなりの額が振り込まれ、夢が叶うと喜んでいた。だが刑事がその所業に勘付いたらしい。

①ホームが買主です
②実際は刑事ではなくスオウ組のアンドロイドですが、今回のストーリーには関係ありません

アキコは早々に横流しの仲間から抜けた。目標額には到達出来ず、夢は諦めた。定年までは勤めるのかとガッカリとしたところ歌舞伎町の事件が起こり、TEラボは俄かに活気付いた。

全世界のどこのラボよりも、先駆けてアンドロイド制御装置を発表するのだ。エムウェイブが世に出たら世界は飛びつく。莫大なマネーが動く。それを日本が独占するのだ。

いやいや。日本じゃないぞと役員達はほくそ笑む。特許を取ったTEラボが勝つ。株価は鰻登り。その費用対効果で更にアンドロイドの研究も進むだろう。TEラボが世界を牛耳るのだ。

アキコにとってそんな経済のしがらみなどどうでも良いが、仕事が楽しいのが何よりだった。元来研究者向きなのだ。エムウェイブを世に出すこと。それが楽しみだった。

「アキコくん。特許課に連絡を取ってくれ」
フクイ主任が微笑んだ。主事のアキコはフクイの右腕のようなものだ。返事をすると早速特許課に通話をして段取りを決めた。


※シンドウアキコの初めての登場シーンです


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