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アンドロイド転生87

2105年 夏
カノミドウ邸:東屋

シュウが曾孫のナナエとこちらに向かって来る。ああ…!来てくれた…!アオイの胸は高鳴った。モネの様子を確認する。大丈夫だ。絵を描く事に集中している。お願い…!そのままでいて。

シュウは東屋に到着すると、微笑んだ。
「手紙をくれたのは…あなたかな?」
「はい。そうです」
アオイは立ち上がり頭を下げた。

顔を上げるとシュウの顔を見つめた。細かい皺が刻まれ年月を物語っている。当然の事だがすっかり歳を取ってしまった。だがその柔和な眼差しは昔のままだ。切なくなって涙が滲んだ。

「お時間を取って下さり有難う御座います。私の主人はタカミザワサクラコ。こちらは長女のモネ。私は通称はサヤカですが、心の名前はアオイです。宜しくお願い致します」

「アオイ…」
「はい。あの…2年程前に、やはり誕生日会の席で旦那様とお会いしたことがあります」  
「そうだったかな…?」

そう。あの時のあなたは106歳と278日。もう109歳になったのね。見た目は若々しいけれど老齢だ。奇抜な事を言って心を騒がせてはならない。体調を崩してしまったら大変だ。慎重にならねば。

シュウは椅子に腰掛けた。
「あなたは…サヤカさんは…ニカイドウアオイを知っているのですか?」
「はい。ニカイドウ家と懇意にしております」

アオイも腰掛けた。
「そこでアオイさんの事を知ったのです」
「そうですか…」
ナナエはモネの隣に座り、モネの描く絵を眺め始めた。お願い。子供達。私に時間を頂戴。

アオイは無難な会話から始めた。
「私も…モネ様もプールに通っています。トウマ様達とは毎週お会いしています。トウマ様はシュウ旦那様とよく似ておられますね」

シュウは微笑んで頷いた。
「ああ。そうなんですよ。私の子供の頃に似ています。なんで分かるんですか?」
「わ、私の想像です…!」

何を言ってるの?馬鹿みたい。アンドロイドが想像なんてする?そんな事を信じる?アオイは上目遣いになって、話を変えた。
「アオイさんはフィアンセだったと…」

シュウの顔が一変した。アオイは焦る。ダメ?こんなプライベートな事を聞いたら怒る…?だが彼は直ぐに表情をやわらげてふっと頬を緩めた。
「もう遥か昔のことです」

そう。彼には遠い遠い過去のこと。でも私にとってはまだ新しい。まだ消化しきれてない。ああ。言いたい。私がアオイだと。生まれ変わったのだと。でもいきなり言っても信じてくれまい。

ナナエがモネに耳打ちした。モネはペンを置く。
「カー!ケーキ食べるんだって!行こう!」
モネは慌てて椅子から降りるとアオイの膝に抱きついてきた。なんて事だ。これからなのに。

モネはアオイの腕をグイグイと引っ張り始めた。アオイはオロオロとする。まだ、話は始まったばかりだ。何も出来てない。ナナエも椅子から立ち上がるとシュウの手を取った。

「お祖父ちゃま〜。行こうよ〜!つまんない!」
「待ってくれ。まだ話は終わっていないんだ」
シュウは促すかのようにアオイを見た。アオイは慌てた。ど、どうしよう…。

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