見出し画像

アンドロイド転生817

2118年7月5日 午後2時過ぎ
イギリス:ハスミエマの邸宅

エマの母親はリョウの来訪を喜んだ。引き篭もりの娘が笑うようになったのだ。彼はきっとエマの救いになると信じていた。だが何故我が家に100日通うのだ?それが疑問だった。

エマは唇を舐めた。
「先輩は…き、祈祷師なの。うちに願掛けしに来たの。日本で待ってるクライアントの病気を治す為にね。うちが…気の流れがイイんだって…」

リョウは目を丸くした。祈祷師⁈なんて突拍子もない事を言い出すのだ。だが話を合わせた。
「そ、そうなんです。気の流れ…水が…そう!水が良いと天命を授かりまして…」

母親は驚いた。
「患者さんにうちのお水を飲ませるの?でも日本で待ってるんでしょ?腐ってしまうわ」
「ぼ、僕が…飲むんです!」

もうこうなったら破れかぶれだ。リョウは身振り手振りになった。
「僕がこちらの水を飲む事でパワーを授かり…その僕のエネルギーで患者が治るのです」

エマは呆気に取られている。何を馬鹿な事を言っているのだと言う顔付きだ。母親は目を丸くした。暫く呆然となってリョウを見つめた。リョウの背中を大量の汗が流れ落ちた。

やがて母親は拍手する。瞳が輝いていた。
「素晴らしいわ!」
今度はリョウが驚いた。マジか?と。
「素敵!そうね!あなたにはオーラがある」

人は見たいもの聞きたいものを信じると言う。娘を想うあまり、母親はリョウの言葉を信じた。引き篭もりのエマを救ってくれるかもしれないのだ。救世主なのだ。


ハスミ邸:中庭

リビングから早々と退散したエマはリョウを連れて中庭にやって来た。
「何を馬鹿な事を言うかと思ったけど…まぁ…イイわ。ママは信じたし」

リョウは眉根を寄せた。
「ぼ…僕だって驚きましたよ。な、なんで祈祷師だなんて言ったんですか」
「だって100日通うんだもの。他になかった」

エマは暫く黙った後、頬を緩めて吹き出した。
「そ、それにしても…お水…お水をアンタが飲んで…そのパワー?笑っちゃう」
ケラケラと高笑いをする。

「そんな…凄いパワーの人なんている?ママはよく…信じたなぁ!」
さもおかしそうに彼女は腹を抱えた。リョウは呆気に取られた。エマが笑うなんて。

エマの弾ける笑顔を見てなんだかリョウも楽しくなって来た。そうだな。水のパワーか!2人で笑っていると母親がやって来た。笑顔だ。
「楽しそうね。あなた達。はい。お茶よ」

執事アンドロイドが母親の後ろに従えていた。彼女が頷くと執事はワゴンを押してやって来た。イギリス伝統のフルアフタヌーンティーのセットをテーブルに並べた。

何枚もの皿が層になっており、その皿にはカラフルなケーキやフルーツなどが乗っている。執事は紅茶のポッドを持つとカップに注いだ。湯気がほんわりと大気に溶ける。

「ドウガミさん。甘いものはお好きかしら?」
「は、はい」
「これがイギリスの名物よ。召し上がって」
「あ…有難う御座います」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?