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アンドロイド転生996

2119年10月1日 早朝
タナカ邸 リビング
(ルイのホストファミリー宅)

ルイは荷物を持って家族のいるリビングにやって来た。義母が微笑んだ。
「そろそろ出発ね」
「うん」

義妹のマリコがニヤリとする。
「土産を忘れるなよ。食いもんがいいな」
「食いもん?おい。マルコ(愛称)。それ以上丸くなってどうすんだ?」

マリコはルイに何を言われても平然としていた。身体も太いが心も太い。多少の事に動じない。丸々とした頬を上げてニンマリとする。そんな兄妹の掛け合いを両親は微笑ましく見ていた。

「忘れ物はないわね?」
「うん」
「楽しんでこいよ」
「はい」

義理の両親はルイを本当の息子のように思って接していた。ルイもそれが嬉しかったし2人を信頼していた。血縁関係もなく法律上の親子でもないが、同じ屋根の下で暮らす家族なのだ。

「アニキ。イギリスの女に騙されるなよ」
「騙されるか!」
「甘い。女は怖いんだよ」
マリコは10歳。だが何もかも承知らしい。

時間になりルイは家族に見送られて家を出た。一度学校に集合してその後は全員で成田国際空港へ向かう。6時間後にはイギリスに到着だ。科学の発展により益々世界は近くなったのだ。

成田に着くとルイは初めての空港に目を丸くし、旅客機に驚いた。こんな巨大な物が空を飛ぶのかと恐ろしくなる。機内に乗り込むと同級生のレナはルイの隣に当然の顔をして座った。

レナはルイに恋心を抱いているがルイはその気がない。だがレナはそれでも心折れずにいた。そしてルイに対して無理強いしない。友達というスタンスを守っている。それが気楽だった。

「俺、飛行機も外国も初めてだ」
「私は…」
レナは指を追って数え始めた。全部で7カ国だ。そんなに世界を知っているのかと感心する。

ルイは思いついた顔をした。
「イギリスに親戚がいるんだ。ロンドンってとこに住んでるらしい。会いに行くつもりだ」
「私も会いたい!」

ルイは鼻で笑った。
「親戚はおっさんだぞ。楽しくないよ」 
「楽しいかどうか私が判断する。ね?ダメ?私は彼女じゃないし…会わせるのはイヤ?」

「そんな事ない。けど1度目は俺が1人で会う。相手がいいよって言ったら会わせるよ」
レナはやった!と喜ぶ。まだ確定していないのに嬉しそうだ。レナはいつも明るい。

6時間後。無事にイギリスに到着した。生徒達は目を輝かせてビッグベンを見上げた。ルイは周囲を見渡して驚いていた。街並みは日本とは全く趣きが違う。世界は広いなと実感する。

一同はホテルでチェックインの手続きを取り荷物を置いてロビーに集まった。これから自由時間だ。ルイは仲間に誘われたが断ってリョウとの待ち合わせ場所のカフェにやって来た。

美しい店に感動して緊張する。飲み物を注文して外を眺めながらリョウを待った。間もなく男性が店内に入って来てルイに近寄って来た。
「よぉ。元気か?」

目の前の男はルイの知っているリョウではなかった。髪は整えられて服もカジュアルであるがセンスが良い。清潔感に溢れている。にこやかな微笑みはまるで別人だった。


※レナに告白されたシーンです


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