アンドロイド転生925
2118年12月4日 夕方
都内某所:ルイの高校の部室
ルイは一番乗りで部室に入るとロッカーを開けて登山靴を取り出した。ベンチに座ってメンテナンスを始めた。紐とインソールを外してブラッシングする。登山にとって大事な工程のひとつだ。
扉がスライドして女子部員が入って来た。同じ1年生で名前はレナだ。彼女も同じようにメンテナンスを始めた。何故かルイの隣に座る。
「どう?学校は楽しい?」
ルイは何度も頷いた。レナは笑う。
「だよね。勉強も運動も登山もバッチリ。で、見た目もバッチリ」
「何だよ。褒めても何も出ないぞ」
「ね?ルイって好きな子いる?」
ルイの手が止まった。好きな子…モネ…。モネの笑顔が思い出されて胸が苦しくなる。短い付き合いだった。たった3ヶ月間の恋だった。
レナはルイの様子に直ぐに気付いた。
「そっか。いるんだ。まさか…私?」
ルイは驚く。即座に首を横に振った。
「なんだぁ!ガッカリ!」
ルイはまた驚いた。レナはガッカリって言ったぞ?それはどういう意味だ?
「ルイの好きな人は…恋人?片想い?」
ルイは何とも応えられず黙っていた。
恋人じゃない。もう別れたんだから。片想い…どうかな。まだ好きだから…片想いなのかな。でも前のような気持ちじゃない。好きだけど…諦めの方が強い。俺達は終わったんだ。
レナは悪戯っぽい目つきをした。
「あのさ?私がルイの事を好きって言ったらさ?どうする?付き合ってくれる?それとも女は嫌?ルイはゲイ?ノーマル?どっち?」
現代は同性恋愛に対して何の偏見もない。同性婚も法律で認められており、何と子供も得られる世の中なのだ。科学の発展により遺伝子の結合は同性でも可能になった。
「ゲイじゃないよ」
「あー!良かった!私にもチャンスあるね」
チャンス?マジで俺を好きとか?
「やめてくれ。ない。面倒だ」
レナはルイの肩に自分の肩を思い切り当てた。ルイはよろけた。なんて元気なんだ?
「ルイ!恋愛は大事だよ」
そうかもしれないけれど自分には必要ない。
レナの瞳がキラキラとなった。
「ね?クリスマスの予定ある?」
「ない」
「じゃあ…ご飯でも食べに行かない?」
ルイは黙り込んだ。レナはニコニコとする。
「渋谷のイルミネーションが綺麗だよ!」
「イルミネーション…って何?」
「電気がキラキラなんだよ!」
「ふーん」
「ねぇ!一緒に観に行こうよ!彼氏になってなんて言わないからさ!」
だったら良いかも…と思う。
渋谷か…。ルイは春の頃を思い出す。渋谷の桜祭りは凄かった。綺麗で楽しくて面白かった。都会は何でもあるのだと感心したものだ。モネと…手を繋いで歩いたな。懐かしいな。
レナと食事に行く。それだけなら…いっか。
「考えとく」
レナは弾けるような笑顔を見せた。ルイは初めてレナを少し可愛いかも…と思った。
だが直ぐに否定する。今は誰とも付き合いたくない。レナはあくまでも“友達“だ。
「彼氏、彼女とかナシだからな」
「はいはい。分かってる」
※桜祭りのワンシーンです
※ルイとモネが別れたシーンです
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