見出し画像

アンドロイド転生68

2102年12月24日 
タカミザワ邸

「モネ様をメインに撮って下さい」
ザイゼンがゴルフボールサイズの金属の球を放り投げた。球は空中に浮いてモネの周囲をゆっくりと回ると内蔵されているカメラが録画を始めた。

次々に球を投げる。その都度ザイゼンはサクラコ様を…。子供達を…。大人達を…。全体的に。と声を掛ける。全部で5つの球が宙に浮いた。どれも間隔を取って周回する。アオイは感嘆するばかりだ。

「お招き有難う御座います」
サツキがハルを抱いてやって来た。ハルはサンタクロースのコスプレをしている。ハルの母親のアユミも一緒だ。シンプルなドレスが美しい。

「アユミ様、ハル様いらっしゃいませ」
価値観が似ているアユミとサクラコはすっかり打ち解けていた。サクラコがやって来ると2人で盛り上がる。それがアオイは嬉しかった。

タカミザワ家には多くの人が集まっていた。笑顔に溢れ、この日を祝っている。中心のモミの木にはプレゼントの山だ。モネはその周りをハイハイをして時々座り両手を叩いてご機嫌だ。

「え?モネちゃんのお祖母様?お若くてそうは見えません。まるでお母様ですよ!」
サクラコの恋人のカンザキケントは目を丸くした。俳優ならではの口の上手さだ。

「愛とは深淵なるもの。その遠き事はアンドロメダの彼方…。その輝きはアルファ星の如く…」
更に恋人の作家のオサナイセイイチは多くの女性やサクラコの絵画教室の若者達の中心にいた。

ボレロが流れると、イシマルユウヤがダンサー達と広い階段からゆっくりとリビングに降り立った。美しい肢体が音楽の調べと共に舞う。人々が響めき拍手喝采をした。

この日の為にレンタルした多くのウェイターアンドロイドが子供達にジュースを、大人達にシャンパンやワインを配り歩く。テーブルには次から次へと料理が並べられた。

皆の頬は赤く染まり喜びに溢れた。早速飲食を始めると舌鼓を打って喜んだ。サンタクロースを模した髭のアンドロイドが大きな包みを背負って玄関からやってくると子供達は歓声を上げた。

アオイにとっては1年前の記憶(実際は79年前)の今日がありありと思い出される。私の薬指を彩ったあの幸せはどこに行ったの?淋しくて胸が苦しくなってきた。モネを抱き締めた。

昼から始まったパーティは夜通し続いた。サクラコの恋人達は其々の恋人の元へ行ってしまった。だがサクラコはそんな事に気にも止めず新たな恋の始まりに酔っていた。

日本画家とキッチンでワインを飲んでいた。互いの手が優しく触れ合っていた。いつでもどんな時でも恋が始まるのだ。人生は楽しむもの!そうでしょう?サクラコの瞳は煌めいた。

キッチンに水を飲みにやって来たアオイをサクラコはチラリと横目で見た。
「モネは?」
「はい。ぐっすりお休みです」

「サヤカも休んでね」
「有難う御座います」
アンドロイドもスリープモードで省電力になる。サクラコは優しい。私は幸せだ。きっと。1人でも。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?