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アンドロイド転生64

回想 2055年12月〜2065年

第二次関東大震災から15年の歳月をかけ関東平野は低中層建物と緑に覆われた新たな未来都市として生まれ変わった。中央政府が作られ首都となった。名は東京を引き継いだ。

シュウは社屋と自宅を購入し、本社を大阪から東京に戻した。カノミドウ製薬の人工皮膚はその品質の高さから世界中で取引されていた。シュウの執念と従業員の努力が身を結んだのである。

シュウは60歳。息子のタクミは28歳になっていた。苦難の日々だったが過ぎてしまえば充実していたと実感して感慨深い。何事も成るようになるのだな、と思いを馳せた。

12月。シュウは元東京駅跡地の慰霊碑の前で妻と息子と3人で花を手向けた。慰霊碑は高さ2m幅10mの白い石造りの建造物で500棟が東に向かって並べられている。壁面には犠牲になった人々の名前が刻まれていた。

シュウとユリコの両親。親戚。従業員。友人。そして懇意にしていたアオイの両親、弟のようだったミナトとその家族もあった。皆んないなくなってしまったと胸が詰まる思いだった。

シュウは息子の目を見つめた。
「タクミ。私は70歳で引退しようと思う。お前がその後を継いで社長になるのは若過ぎる。だが、カノミドウ製薬は代々血縁が繋いできた。お前は頂点として、従業員を守らなければならない義務と責任がある。やれるか?」

タクミは慰霊碑を見渡した。
「僕は日本が震災に遭った時13歳だった。その後の日本の苦境を目の当たりにした。でも必ず復興すると信じていた。立ち上がれるって。父さんの信念を僕は肌で学んだんだ」

息子は父の目を見た。
「カノミドウ製薬だって危なかった。でも僕は父さんの背中を見て大人になった。この会社を、大事な従業員を守りたい。だから信じて欲しい。義務と責任を果たす。僕はやる」

シュウはタクミの真摯な目と力強い言葉を聞いて満足した。息子の肩を叩いた。頼もしかった。嬉しかった。それでこそ僕の息子だ。
「よし。その気概を信じよう」

シュウは息を吸い込んだ。
「では5年後、副社長に任命する。5年の間はMRとして精を出すんだ。役員達からも文句が出ない数を出せ。分かったな」
「はい」

5年後。役員から満場一致で認められ、タクミは副社長に就任した。その2年後に結婚しさらに3年後、38歳で社長になった。若いトップだが日本は変わったのだ。若い者が牽引していくのだ。

2065年。シュウは70歳で引退した。日々は孫達と共に過ごすのが日常となった。長女アカリ。長男タカヤ。あの震災の時、ハワイにいたから2人と出逢えたのだ。愛おしかった。幸せだった。

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