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アンドロイド転生300

『シュウちゃん…起きて、起きて』
「誰だ…?」
彼女の周りはキラキラと陽光が舞っていた。声が遠くに近くに聞こえる。

『忘れちゃったの…?』
アオイは眉根を寄せて心配げな顔をしている。
「アオイ…」
『そう。私』

アオイは目を細めていかにも楽しそうに笑っている。ああ。こんな笑顔を見るのは久し振りだ。
『ね?起きよう!今日はいい天気だよ!』
「そ、そうか」

シュウは芝生に寝ていた。青い空に白い雲。陽が眩しい。起き上がるとアオイが手を引っ張る。
「待ってくれ。杖はないか?立ち上がれない」
『杖?何を言ってるの?』

アオイは吹き出して口元に手を当てた。
『お爺さんみたいな事を言わないで!』
「何を言ってる?僕はすっかり歳を…」
『嫌だぁ!シュウちゃんたら…!』

シュウは自分の手の甲、腕を見て驚いた。肌にハリと瑞々しさがある。胸元を見た。いつもの痩せた枯れ木のような身体が…違う。胸筋がシャツを押していた。な、なんだ?これは…?

アオイに導かれるようにシュウは立ち上がった。足腰にいつもと違うパワーを感じる。身体中から力が漲るようだ。背筋が伸びる。風が頬を撫でる。清々しい気持ちになった。

顔に手を当てた。滑らかだった。若いのか?ああ。若いぞ。そうか。そうなのか。
『シュウちゃん。今日は私達の結婚式よ』
「え?」

いつの間にかウエディングドレスに着替えたアオイが弾けるような笑みを向けた。なんて…なんて綺麗なんだ。タキシードの自分と手を繋いでいる。
『行こう!皆んなが待ってる』

シュウも走り始めた。そうか!結婚式か!アオイは走る。その速さにシュウは驚いた。
「ちょっと待ってくれ!アオイ!」
『シュウちゃん…!早く…!』

グイグイと引っ張られ、繋いでいた手が外れた。
『遅いよ…!早く…!早く…!』
「おい!待ってくれよ!」
アオイは走る。その姿がみるみるうちに遠くなる。

「待ってくれ…!」
シュウの息が切れた。胸元が苦しい。走れない。無理だ。追いつけない。行くな…!アオイ!身体が熱い。燃えるようだ。み、水が欲しい。誰か…!

「み、水…」
「旦那様…!お目覚めですか!」
「み、水…」
「ドクター!いらして下さい!」

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