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アンドロイド転生208

2114年4月 深夜

アオイは集落を出て川に行き河原の石に腰掛け、星を眺めていた。夜風が気持ちが良かった。遅咲きの桜が月夜に映えていた。春は終わる。季節は巡っていく。ホームに来て1ヶ月が経っていた。

集落を背にして若い男女が歩いて来た。手を繋いでいる。微笑ましい。邪魔にならないように、自分の気配を消したかった。2人は気づかないで通り過ぎた。アオイはホッとする。

男性はアンドロイドのケイだった。女性は人間で…確かサキという名だ。
「ニュージェネレーションだ…」
アオイはポツリと呟く。

アンドロイドと恋人同士になる人間を指す。まったく時代の変化には驚くばかりだ。従順なアンドロイドをまるでアクセサリーのように従えるのだ。サキもそうなのだろうか。

「アオイ。隣いい?」
チアキとミオがやって来て座った。ケイ達がこちらに向かって手を振った。2人は手を振り返す。恋人達は闇夜に消えた。

チアキはアオイを見た。
「柔術をインストールするのを断ったんだって?」
アオイは深く頷いた。ミオは小首を傾けた。
「何で?」

アオイは頭を軽く振った。
「反対に私の方が聞きたい。2人は泥棒する事になんの罪も感じないの?」
「だって悪い事をしてる人達から盗るんだもん」
ミオはニッコリとする。

チアキも微笑んだ。
「楽しいよ。自分の本領が発揮されると思って」
「本領発揮だなんておかしいよ。アンドロイドに押し付けているように私には見える」

ミオは笑った。
「押し付け?それってアオイには人間の心があるから?だから私達とは違う風に思うのかな?何で嫌なの?そんなに嫌かなぁ」

アオイはゆっくり頷いた。
「キリに変わっているねって言われた。皆んなと違うって。でも私は間違っていないと思う。何の手も汚さずマシンにやらせるなんて酷いよ」

チアキは当然のように笑った。
「人間はそういうものだよ。私達の役割は人間を幸せにすること。それでいいの」
「それって対等じゃない。やっぱり違うんだ」

チアキは薄く笑った。
「人間は神になれない。アンドロイドは人間になれない。私達は造られたの。超えられない」
そうか。結局はタウンと同じか。境界線があるのだ。そしてそれをチアキ達は理解している。

ミオは宙を見上げた。
「私は人間に憧れるだけ。だからせめてあの人達を幸せにしたい」
「泥棒する事が幸せだなんておかしい」

チアキの微笑みは優しかった。
「アオイは…とても美しいね。生前の頃も輪廻転生した後も。闇を知らない光に見える」
「えっ?」

ミオも微笑んだ。
「そうだね。そのままでいてね」
チアキとミオは立ち上がると去って行った。え?私が美しい…?アオイは呆然と見送った。

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