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アンドロイド転生829

2118年7月15日 夕方
ロンドン:ミアの自宅

友人のミアに誘われてリョウは彼女の家にやって来た。ミアの家族に温かく迎えられてイギリスに来て初めて伝統のアフタヌーンティーを楽しんだ。
「とても美味しいです」

暫くお茶とケーキで談笑した後、アキオはリョウを工房に招いた。バイオリンが所狭しと並ぶ室内だ。デスクに製作途中のバイオリンがあった。アキオはそれに優しく触れた。

「ミアから聞いたかもしれんが、こんな作業もアンドロイドの方がよっぽど精巧に出来るんだ。だが人間が製作した音には『ゆらぎ』があるんだよ。それを求める人もいるんだ」

リョウは深々と頷いた。ミアの性格は父親譲りなのだなと思った。アキオは微笑んだ。
「日本は平和だろう?」
「はい」

そうは答えたものの、実際はよく分かっていない。35年間、山で暮らしたのだ。都会の安全性など知らなかった。だがどうやら日本は世界でも類を見ない程の平和大国らしかった。

アキオが悪戯っぽい目をした。
「2回も詐欺に騙されそうになったんだって?」
「は、はい」
「実は僕も騙されてねぇ…」

リョウは目を丸くした。アキオは笑う。
「子猫が病気だって言うんだよ。子供がね?泣いて訴えるんだ。すぐに病院に行きたいって。で、ペイを払ったら…子猫はぬいぐるみさ」

アキオは椅子に座った。リョウにも勧める。
「家族が呆れてねぇ…。僕を能天気だと言ってさ。騙される奴なんて日本人くらいだと。もう30年もイギリスで暮らしているんだが…」

リョウは頭を下げた。
「その節は…娘さんに助けて頂いて本当に助かりました。感謝しています」
そうやって俺には友達が出来たんだ。

「君は…100日間イギリスに滞在するとか…」
「はい。正確にはあと87日ですが」
「ホテル暮らしなんだろう?」
「ええ。そうです」

アキオは腕を組んだ。
「それでは支払いが大変だろう」
そうでもなかった。確かに費用は掛かるがホームの泥棒稼業で資金は潤沢なのだ。

「うちの家内…グレースの親が持っている空室のフラットがあるんだ。ここから通り一本離れたところにある。そこに住んだらどうだ?」
リョウは仰天した。

アキオは笑った。
「家事炊事はうちの執事を貸すよ。グレースが何でもするからリチャードは暇なんだよ」
「で、でも…そんなご厚意に…」

グレースが工房に入って来た。
「リョウ。フラットに住んで下さい。ミアが喜ぶ…マス。ミアは失恋しまシタ。でも元気になった。リョウとトモダチなったからデス」

図らずもリョウはミアまで元気にしたらしい。両親が喜んでいるのだ。こんなに誰かに望まれた事などこれまでの人生になかった。まるで想像もしなかったが、ただただ嬉しかった。

そして翌日。リョウは引っ越した。室内は生活必需品は全て揃っていた。それ以降。毎朝8時になるとリチャードがやって来た。夜型のリョウは叩き起こされて1日をスタートするのだ。


※フラットとはアパートの事です。イギリスでは集合住宅をフラットと言うそうです。

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