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アンドロイド転生290

2118年1月30日
エリカの部屋

「今日もアオイがルイに厳しく当たったの。でもあの勉強の教え方は酷いよ。フィボナッチ数列の定義だなんて専門家でも難しいのに捲し立ててさ。分かるわけないよ」
エリカは憤慨する振りをした。

モネは眉根を寄せた。
「なんでそんなに意地悪なの?家族でしょ?」
エリカとモネはすっかり友達になった。こうやって時々電話をするのだ。

エリカは頭を抱える。
「アオイは家族って事を利用して自分がアンドロイドだって忘れてるの。いい気になってるの。…でもこの事はルイには言わないでね」

モネは目を見開いた。
「なんで?」
「ルイは男の子でしょ?アオイに辛く当たられてるなんてモネに知られたくないの。プライドなの」
モネは納得した顔をする。

エリカは含み笑いする。アオイはルイに勉強など教えていない。難解な定義も然りだ。モネに敵対心を持って欲しくて出まかせを言ったのだ。エリカの自我は益々育ち自分の都合の良いように働いた。

「アオイはムカつくね!私が文句を言いたい」
アオイが自分を育ててくれたあのサヤカだと知らないモネはすっかりルイの敵だと思い込んで憤慨していた。しめしめとエリカは思う。

人間なんて簡単だ。アオイが実はあなたのナニーだったのよ?そう言いたいのを堪えて陰で笑う。エリカは身を乗り出した。
「ね?私が新宿に行ったら会ってくれる?」

「勿論!エリカはアンドロイドぽくない。人間みたい。お姉さんみたい」
18歳モデルのエリカはモネよりも3歳上だ。
「モネのおうちに遊びに行きたいなぁ!」

「来てよ!来て!サヤカの動画を観て欲しいの。凄く優しいナニーだったの!」
「モネが優しいもん。良いナニーに決まってる」
はいはい。今はホームでナニーだよ。

モネは上目遣いになった。
「ルイも来れるかなぁ?月に一度しか会えないなんてつまらない。もっと会いたいの」
「私がこっそり連れて行こうか?」

モネの目が見開いた。
「ホント?ねぇ?明日…来れる?学校が休みなの。来て欲しい!お願い…!」
「分かった。これは私達だけの秘密ね?」

モネは小さく拍手した。何度も頷く。
「うん!秘密!嬉しい!凄く嬉しい!」
エリカはモネと通話を切った後、ルイを探した。モネとの約束を伝えるとルイは大喜びをした。

「キノコを採りに山に2人で行ったことにする」
エリカの提案にルイは何度も頷く。雪山でもキノコは採れるのだ。
「そうしよう!」

翌日の朝。2人は車両保管場所までやって来てエリカの運転する車にルイは乗り込んだ。本当は手軽なバイクが良かったが人間の身体には寒さが耐えられないのだ。人間はか弱いとエリカは思う。

私の方が凡ゆる面で優れている。そんな風に有利に思ってエリカの自尊心は育つばかりだ。ルイの瞳は輝いていた。口元が自然に綻んでいる。喜びを隠しきれない様子だ。

エリカは薄く笑った。人間って何て簡単なの?こうやって味方になるほどにルイやモネは自分を信用する。エリカは2人を操る容易さに酔っていた。

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