アンドロイド転生816
2118年7月5日 午後2時
イギリス:チェルシー地区
ハスミエマの邸宅
リョウは門扉でいつものように訪問を告げた。今日でこの家に訪れて4日目だ。門が開かれると玄関に行く。扉から執事が出ると思っていたら、中年の女性だった。リョウは驚いた。
美しくて華やかな顔立ちはエマによく似ていた。母親に違いない。
「いらっしゃい!」
彼女は満面の笑みだ。
リョウは緊張する。
「あ、あの…ド、ドウガミリョウです」
「はい。こんにちは。どうぞ。どうぞ。中に入って。レモネードでも如何?」
母親はご機嫌という言葉が相応しいほどに浮かれていた。リョウの背に軽く手を当てて室内に招き入れた。矢継ぎ早に質問を投げかける。歳は?仕事は?住まいはどこか?など。
リビングにやって来るとソファにはエマがいた。不機嫌そうな顔をしている。
「ママ!いいからほっておいて!」
「お客様を放ってはおけません」
母親にしてみれば嬉しい客なのだ。イギリスにエマがやって来て3ヶ月。ずっと沈んでおり何事にも興味を示さなかった。そんな娘がやっと他人と関わりを持ち始めたのだ。楽しくて堪らなかった。
リョウをソファに座らせると斜め向かいのスツールに腰掛けた。自然と前のめりになってしまう。リョウをじっくりと観察し始めた。容姿はいまひとつだけど目元は理知的だ。
母親は目を細めた。こう言う人の方が安全なのよ。だから真面目な人といつか結婚して幸せになって欲しい。それが願いだ。それなのにエマはアンドロイドも恋愛対象なのだという。
それは困るのだ。人間は人間と結ばれるもの。だが娘も漸く目が覚めたらしい。エマは29歳。そろそろ結婚を考えても良い。この青年なら娘を幸せに出来るだろうか。
「えーと…お名前はなんだったかしら?」
「ド、ドウガミリョウです」
「ドウガミさん。エマとはどんな関係?」
「え…。えと…その」
リョウは俯いた。僕は娘さんを貶めた相手です。言わねば。言わなければ。決意して顔を上げると息を大きく吸い込んだ。
「僕は謝罪に」
「友達よ!」
エマの大きな声が割って入った。
「大学の先輩なの。ね?先輩」
エマの瞳が余計な事を言うなと訴えている。
リョウは呆然となったものの直ぐに頷いた。母親はニッコリとする。
「あら。そうなの。こちらに来たのは?お仕事かしら?うちに100日通うってどういうこと?」
エマに謝罪をする為に、お百度参りをしているのだ。100日間欠かさず家に通えばリョウの罪をエマは許すと言ったのだ。だがエマはそれを母親に知られたくないらしい。
リョウは慌てた。何と答えて良いか分からない。しどろもどろになる。リョウは頭脳は優秀だが人慣れしていないのだ。見知らぬ女性に追求されて上手い切り返しが出来なかった。
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