アンドロイド転生938
2118年12月24日 夜
東京都渋谷区 道玄坂
「ねぇ?綺麗でしょう?」
レナの瞳がキラキラと煌めいた。
「うん。だな」
ルイを辺りを見回した。
2人は渋谷の道玄坂を歩いていた。大通りの桜の木には美しくイルミネーションが輝いていた。緩やかな坂道を2人は歩いた。もう直ぐでレナのお勧めのレストランに着くらしい。
ルイは感慨深い気持ちで木を見つめていた。9ヶ月前の桜の季節にモネと手を繋いでここを歩いた事を思い出す。50万人の人出でもルイにはモネしか見えていなかった。
ルイは溜息をついた。ずっと側にいたかったのに…色んな事があって別れてしまった。モネは元気かな。骨折した足は治ったかな。完全回復すると医者は言ってたけど大丈夫かな。
今頃…何をしてるんだろう…。イブだもんな。どっかに出かけてるかも。誰と…?友達…?それとも彼氏でも出来たかな。ルイは激しく頭を振った。考えるな!何も!何も!
「ルイ!ここだよ!」
レナが立ち止まってレストランを指した。
「去年は家族で来たの。ローストビーフが凄く美味しいんだよ。さ!入ろう!」
給仕アンドロイドがやって来てレナの顔を認証するとニッコリと微笑んで予約席に案内をした。ルイは感心する。そうなのか。レストランは予約というものをするんだな。
席に着くとテーブルにはホログラムの蝋燭が浮かんでいた。揺らめく炎に心が落ち着く。雰囲気が良いなとルイは思う。こんな風に画像を使うところがやっぱり都会って凄いなと感心する。
周囲を見回すと、多くのカップルがいた。だが皆自分達よりも歳上に見える。こういう店は大人の恋人同士が来るのものでは?と思う。
「何だか…俺ら…場違いじゃないか?」
レナは笑った。
「大丈夫!私達もカップルに見えるよ!」
カップルが恋人を指している事をルイも学んだ。それは困る。レナには恋愛感情はないのだ。
レナは両手を組んで肘をつき顎を乗せた。
「カップルに見えるけど、私はルイに無理強いしないよ。付き合ってなんて言わない。友達として好きになってくれたら嬉しいだけ」
ルイはホッとする。自分はまだ誰とも恋をしたくない。そう。ルイの傷は深いのだ。レナにグイグイと来られたら困ると思っていた。
「うん。友達なら…」
レナはニッコリとする。笑顔は可愛いなと思う。だが特別な気持ちはない。やがて食事がやって来た。レナのお勧めだけあって前菜から美味しい。メインのローストビーフには舌鼓を打った。
「マジで旨い!俺さ?村では牛って食べたことなかったんだ。そもそも牛がいなかったし。猪とか狸だった。鍋とかシチューとか」
「へぇ!」
デザートを堪能すると店を出た。支払いはルイがした。レナは恐縮しつつとても喜んだ。義理の父親は女の子と食事に行くならルイが払うべきだと言って小遣いをくれたのだ。
道玄坂をまた駅まで向かって歩いた。多くの人がすれ違っていく。ルイの赤毛に驚くが友好的な笑顔を見せる。それが嬉しい。タウンに来る前は特異な姿を毛嫌いされるかもと不安だったのだ。
その後は夜景や買い物やゲームを楽しんだ。親戚以外の女の子と2人でいるなんてとルイは自分の世界の変化に感心する。9時になると駅で別れた。線路を挟んで電車のホームで手を振り合った。
※レナの告白のシーンです
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