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アンドロイド転生828

2118年7月15日 夕方
ロンドン:ウェストエンド地区

リョウはロンドンの裏通りにやって来た。古めかしい3階建ての煉瓦の建物が連なっている。そのひとつの大きな窓には沢山のバイオリンが吊るされていた。リョウは頷く。ここがミアの家だ。

窓を覗くと中年の男性が木工細工をしているのが見えた。バイオリンを作っているようだ。傍にはミア。リョウの視線に気がつくとパッと瞳を輝かせた。手を上げて待ってと合図する。

ミアが男性の肩を叩く。彼は顔を上げる。ミアがリョウを指した。男性はリョウと目が合うと優しく微笑んだ。直ぐにミアが表に出て来た。
「いらっしゃいませ!」

リョウを家に招き入れた。出入り口を入って右側の扉が工房。真正面が階段だ。ミアが登る。
「こっち。こっちに来て」
ミアに従って階段を上がると広いリビングだ。

目の前の執事アンドロイドが慇懃にリョウに向かってお辞儀した。
「リチャードって言うの」
リョウも頭を下げた。

奥から中年の白人女性がやって来た。
「コンニチハ。ミアがお世話になってマス」
発音が少し違っているが日本語が上手だ。
「こ、こんにちは。ドウガミリョウです」

次に若い男性が上階から降りて来た。
「弟なの。レオって言うの。漢字で礼儀正しい男って書くの。素敵でしょ?」
レオは手を差し出した。慌てて握手する。

間もなく中年男性が階下からやって来た。微笑んでいる。ミアはニッコリとした。
「お父さんのアキオ。お母さんはグレース。さ、リョウ座って。お茶しよう!」

執事がアフタヌーンティーを運んできた。カラフルなお菓子の盛り付けは美しく絶品だ。エマの家では緊張ばかりでいつも味が分からないがここでは気持ちにゆとりがあった。

グレースがニッコリと微笑んだ。
「リョウ。美味しいデスカ?私…作りマシタ」
「はい。とっても美味しいです」
やっとアフタヌーンティーを楽しめた。

アキオはニコニコとしており細めた目元は優しげだ。ミアは父親はリョウとよく似ていて能天気だと言っていたがそんな風には見えなかった。思慮深くておとなしそうな人物だ。

レオがリョウをじっと見つめた。
「僕は大学生です。電機を学んでます。半導体の技術を更に高めてアンドロイドのAIチップをより良く作りたいと思ってます」

リョウは嬉しくなった。最も得意とする分野だ。レオが色々と質問してくるのを意気揚々となって答えた。レオの瞳も輝いた。話はいつまでも尽きない。暫くするとミアが苦笑した。

「レオ。そこまでにして。今日はお父さんがリョウに会いたいって言ったのよ」
リョウは慌てた。すっかり熱が入ってしまった。
「す、すみません。僕はオタクなんです」

全員が笑った。なんだかとても心地の良い声だった。これが『ゆらぎ』の音なのか…とリョウは思う。ミアが前のめりになった。
「リョウ。イギリスの家はどう?古いでしょ」

彼はゆっくりと部屋を見渡した。歴史のある建物は確かに古いが、清潔で大切に使われているが見て取れる。この家も…家族も…とても温かい。心が通っていると感じた。

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