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アンドロイド転生28

回想 2018年1月

「え?シュウちゃん、来てくれないの?」
ヒナノは目を見開いた。彼女はピンクの鮮やかな振袖を纏っていた。美しさに磨きがかかっていた。色白の頬が冷気で赤く染まっていた。

「何でシュウちゃんが来るの?」
アオイは逆に問い掛けた。口元から白い息が漏れ、陽光に溶けていく。アオイは名前にちなんで落ち着いた紺色の振袖だ。

2人は同級生6人と区民ホールの前で写真を撮り合っていた。若者達は人生の門出に相応しい華やかやな様相で其々が美しかった。蕾が開いたと言えよう。誰の顔にも希望とやる気が溢れていた。

「こう言う時は彼氏が迎えに来るもんでしょ?」
「シュウちゃんがいつから彼氏になったのよ」
「あんた達そろそろ気がついたら…?」
ヒナノが呆れたような顔をした。

「シュウちゃんとは幼馴染なの。それ以上でも何でもないの」
ヒナノは悪戯っぽい目つきをした。
「そんな事を言ってると誰かに取られちゃうよ」

アオイの胸がとくんと跳ねた。誰かに…?取られちゃう?シュウがアオイの知らない女性と一緒にいる姿を想像する。嫌だ。そんなの。でも、私にそんな権利はない。私達はただの幼馴染だもの。

それに最近はシュウと会う事が少なくなってきた。毎年恒例だった年末年始の両家での旅行もなくなった。子供達は成長に伴い友人を選ぶようになった。親と過ごす時間が減ったのだ。

大学の学部も違う。2人は違う道を歩んでいるのだ。そうよ。そう。シュウと結婚すると言ったのは、子供の頃の思い出。私達は大人になったのだ。距離が生まれるのは当たり前。

「なぁ?予定ある?なかったら俺らと明治神宮に一緒に行かない?」
小学部から一緒のタチバナマモルが声を掛けてきた。紋付袴の彼は別人のようだ。 

同級生達が飛び跳ねた。
「行く!行く!」
マモルがアオイに顔を向けた。
「アオイも行くだろ?」

マモルはすっかり大人になった。アオイの誕生日会でケーキを頬張り、クリームを顔につけていた少年とは思えないほどだ。声が変わり、背が伸びてお洒落に関心がある男になったのだ。

私も変わった。夢の女優にはなれないし、シュウちゃんのお嫁さんにもなれない。全て思い出。これからは現実を歩いていく。きっとただのOLになるのだ。そう。それで良い。

「うん、行く!」
アオイは笑顔を見せた。明治神宮では何をお願いしよう?ありきたりだけど幸せになれますように…かな?あ、家族の健康も願おう。うん。

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