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アンドロイド転生218

白水村:タケルの部屋の前にで

エリカはタケルを上目遣いで見た。
「アオイの事は嫌いよね?」
何を勝手に決めつけている?全く頭が痛い。
「嫌いじゃない。でも好きでもない」

「じゃあ…誰が好きなの?」 
愛した女はただ1人。生前の恋人のリオだけだ。タケルの家庭の事情から疎遠になり別れを切り出され、恋は終わった。今では懐かしく甘い想い出だ。

「私の事は…?好き?」
これは驚いた。今までこんなハッキリと口には出さなかった。頭の回転の速いタケルは理解した。エリカは不安なのだ。拠り所が欲しいのだ。

「お前は…妹みたいかな」
エリカは兄妹愛と男女の愛の違いを理解している。だからタケルの言葉に不満だった。それでは恋人になれないではないか。

エリカの首が横に揺れた。
「それじゃ嫌なの…」 
「お前の気持ちは知ってるけど、俺は誰も好きにならないよ。この先ずっと」

エリカは一歩前に出た。
「お願い。私を見て。私…頑張るから。タケルに好かれるように努力するから。私もっともっと可愛くなる。ホントよ?ホント」

タケルはまたもや驚いた。アンドロイドの自意識とはここまで発達するのかと。これではまるで人間のようではないか。タケルはある意味感動していた。人間は凄いものを生み出したのだ。

「愛は…努力して掴むものじゃない。俺だって人間の時にフラれたんだ」
「私はフラない。絶対に」
エリカの瞳は揺るぎなかった。

「いや、そう言う事じゃなくて…。人の気持ちは無理に動かしてもダメなんだ」
エリカはタケルの胸に手を当て縋ってきた。
「私が…人じゃないから?マシンだから?」

タケルは疲れてきた。これでは堂々巡りだ。こうなったら強行突破だ。タケルは腕を組み、背筋を伸ばし彼女を射るような目で見つめた。
「エリカ。寝ろ。スリープ機能で休め」

命令される事に慣れているエリカはタケルの言葉に服従した。自意識が芽生えたと言えど、やはり人間に従う事が彼女の存在意義でもあるのだ。
「分かった。お休みなさい」

タケルは表情を緩めエリカの頭に手を当てポンポンと優しく叩いた。エリカは嬉しくなった。これをされると何だか温かな気持ちになるのだ。エリカは微笑んで去っていった。

タケルは胸を撫で下ろす。話の決着は済んでいないけれど、今は強行策が功を奏したようだ。明日になって思い出して、また愛だの何だの言い出さないでくれと願うばかりだった。

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