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アンドロイド転生759

茨城県つくば市
シンドウアキコのマンション

アキコはアンドロイドと付き合う容姿の優れない独身の中年女だ。だが誰も彼女を気にも留めない。アンドロイドと性的関係を結ぶ風潮は直ぐに世の中に浸透したのだ。

今日もアキコはマッチングサイトを覗いた。アキコは特定の恋人を作らず何度か会ったら乗り換える事にしている。惚れ込むのが怖いからだ。所詮はマシンなのだから。

彼女の目の前には立体画像のモデル達がずらりと並ぶ。どれも見知った顔だ。その中で初見の顔がいた。名前はゲン。野生味溢れる整った顔立ち。裸の上半身が筋肉隆々だ。

詳細をクリックする。ゲンの凡ゆるポーズが浮かび上がった。憂を帯びた横顔。少年のような笑顔。子猫と戯れる優しい眼差し。素敵だけれど他のマシン達とどっこいどっこいだ。

アキコは特別興味を持たなかった。だが誘いのメールが届いた。是非、お話をしたいと。自分が詳細をクリックしたのを感知してメッセージを送りつけて来たのだ。

アキコはほろ酔い気分で焦らす。
「う〜ん。どうしようかなぁ…」
再度メッセージが届いた。
『想い出話に付き合って下さいませんか?』

アキコは目を見開いた。こんなパターンなど初めてだ。マシンの想い出話し?何だろう?応じる事にした。宙空に言葉を放つ。
「想い出話しってなに?」

ゲンのホログラムが宙に浮いた。
『有難う御座います。私の主人の事です。愛情深く思い遣りがあって素晴らしい人でした。ご結婚されて別れたのです。寂しいです』

成程。そう言う事か。
「ふーん。どんな人?」
ゲンの隣に立体画像が現れ出た。アキコは目を丸くした。自分にそっくりだった。

アキコは画像を凝視する。ゲンと手を繋いで微笑む主人はとても幸せそうだ。可愛らしく見える。自分とよく似た女性が優しくて素敵だと言われてアキコは嬉しくなった。

ゲンは微笑んだ。
『貴女様のお顔を拝見したいです。お見せ頂けませんか?』
アキコは恐る恐るロックを解除した。

ゲンも目を丸くする。声が震えた。
『貴女様は私の愛した主人とそっくりです!』
「う、うん。私もびっくりしたの。こんな事ってあるのね…」

ゲンは切なそうに微笑んだ。
『これはもう運命に違いありません』
「運命…」
アキコはゲンを見つめた。そうなの?本当に?

それから2人の話は弾んだ。ゲンは話術に長けており面白おかしく想い出話を語った。アキコは笑った。時には切ない話題にも触れ涙が滲んだ。それだけゲンと親しくなったのだ。

『アキコさん。宜しければ是非会って下さいませんか?酒蔵所巡りでも如何ですか?』
酒が好きだと言うとゲンは誘ってくれた。彼の事は気に入った。直ぐに承諾した。

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