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アンドロイド転生261

2117年12月30日 深夜
カノミドウ邸:シュウの寝室

目の前のシュウを見てアオイは愕然となった。12年前の面影はなかった。だいぶ痩せてしまっている。パジャマの肩が薄い。顔にも深い皺が益々刻まれていた。それでも瞳は理知に富んでいた。

シュウは訝しげな顔をした。全身黒尽くめのアンドロイドをじっくりと眺めて思案しているようだった。驚いて騒ぎ出さないのは、いつでも冷静で何事にも動じない彼らしかった。

シュウとアオイの視線が交差した。
「誰だ…?」
「アオイです」
「アオイ…」

アオイは頭を下げた。
「こんな時間に申し訳ありません。驚かせないようにゆっくり話したいのですが時間がありません。どうか…柔らかい心で聞いて頂けますか?」

シュウとは11年の間に今まで3度のチャンスがあった。打ち明けたかった。元婚約者のアオイだと。輪廻転生したのだと。でも難しかった。それにはシュウが老齢だということが一番大きかった。

荒唐無稽な話をしてシュウの身体に異変でも来したら…とそれが心配だった。でも、もう躊躇している時間はない。どうか、彼が受け入れてくれること。それだけを信じて話すしかなかった。

アオイは意を決して息を吸い込んだ。
「ニカイドウアオイさんを覚えていますか?」
シュウはゆっくりと頷いた。
「ニカイドウアオイは覚えているよ」

そしてアオイをじっと見つめた。
「君の事も覚えている。君は…あの時のアンドロイドだね?何度か会った。うちの屋敷で。東屋で。まさかここまでやって来るとは思わなかったなぁ」

シュウの余裕のある口振りにアオイは安堵した。体調は悪くなさそうだ。
「あの時、輪廻転生の話をしました。旦那様は信じないと仰いました」

シュウは笑った。
「いや、そうでもないんだよ。玄孫がね?妻に似ていてね?もしかして生まれ変わりじゃないかって家族で話題になるんだ」

アオイは嬉しくなった。良い傾向かもしれない。ねぇ?シュウちゃん、信じて。お願い。私なの。アオイなの。私達結婚する筈だった。家族になる筈だった。アオイは息を吸い込んだ。今!告げる…!

「カノミドウシュウさん。信じて下さい。私はニカイドウアオイです。交通事故で死んだ後、生まれ変わったんです。まさかの…アンドロイドなんですが。マシンですけど…心は人間です。アオイです」

シュウは手を組んだ。微笑んだ。
「僕はねぇ…君と最後に逢った時のことを時々思い出してね?何でアオイとの想い出を知っているのかと不思議でならなかった。ヒナノさんに聞いたのかと思ったら、彼女からメールが来てね?世の中には不思議な事があるものだという内容だった」

シュウはアオイを見上げた。
「ヒナノさんに会いに行ったね?」
「はい。たった一度しか会えませんでした。二度目に行ったら亡くなっていたのです。もっと話したかった。だって…私達は親友だったから」

2人の視線が交差した。
「アオイなんだな?」
ああ…!信じてくれている!
「そう。シュウちゃん!アオイよ!」

2人の姿を見守っていたケイは微笑んだ。良かったな。アオイ。そこにタケルから通信が来た。
『アオイはクリアしたか?』
「うん。こっちは…感動的なシーンだよ」

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