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アンドロイド転生148

キリはタケルに剣術・居合術・抜刀術・柔術・槍術・薙刀術・空手・体術の他、爆弾処理、毒物処理、銃器操作をインストールした。この技術を一体何に使わせるのだろうと不審に思った。

「タケル来て」
キリは白衣を脱いでジャケットを羽織るとリペア室を出て廊下を進み、外に出た。キリの夫のタカオも息子のルイも付いてきた。

人間には底冷えのする12月の午前6時。タケルはスウェットのような薄手の上下だった。キリは白い息を吐きながら歩んでいる。点在する集落の中央に広場があった。キリは辺りを見回した。

「チアキ!」
チアキがやって来た。
「はい。タケル。チアキと戦って」
タケルは弾けるようにキリを見た。

戦う?何を言ってるんだ?間髪を入れずにチアキが蹴りを繰り出しタケルの肩を打った。タケルはよろけて尻餅をついた。驚いてタケルはチアキを見た。チアキはその顔に向かって殴りかかってくる。

何ひとつ反撃できないままタケルは打たれていた。キリは呆れた顔をする。
「タケルー!しっかりしてよー!」
「女と戦うなんて嫌だ!」

父親の暴力でタケルは育った。女性に手を出す男になりたくなかった。チアキは連打する。タケルは自然と防御の技を繰り出した。こんな事が出来るのはあらゆる柔術のインストールのお陰だ。

「じゃあ、トワ!」
少年のアンドロイドが場に躍り出た。素早い動きでタケルは全く太刀打ち出来なかった。あっという間に腕を締め上げられうつ伏せになった。

キリは両手を筒状にして大声を出す。
「タケル〜!しっかりしろ〜!本気出せ」
トワが笑った。
「だめだよー。コイツ、鈍臭い」

タケルの頬が強張った。トワを跳ね除けると彼の両肩を掴み頭突きした。トワはヨロヨロとなり仰臥した。タカオが歓声を上げた。
「おお!いいぞ!」

ルイが手を叩いた。トワはブリッジをして跳ねるように起き上がった。構えの姿勢をして掌を上に向けると、4本の指をタケルに向けクイクイと前後に揺らした。誘っている。

タケルはトワの脚に向かってスライドし払った。トワは倒れる前に腕を軸にして立ち上がり、タケルに向かって拳を打ちつけた。タケルも負けてはいない。2人は見合った。

点在していた人々がやって来て声援を送った。10分後。タケルは負けた。キリは拍手した。
「はーい。トワ、終わり〜!タケルもよく頑張りました。まぁ、これは慣れだからね。慣れ」

トワはタケルに丁寧にお辞儀した。タケルもトワにお辞儀した。タケルは負けたけれど悔しくなかった。ボクサー崩れの父親の一方的な暴力とは違った。これは…健全なるスポーツだ。

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