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アンドロイド転生809

2118年7月1日 正午
イギリス:ロンドンの中心街

リョウを助けた白人の女性は笑った。
「日本人でしょ?甘いなぁ。油断し過ぎ。街を案内するって言われたんでしょ?前払いしてペイを払っても約束の場所になんて来ないよ」

リョウは訳も分からず目を白黒させた。
「え?来ない?」
「日本は平和過ぎるからね。ターゲットにされやすいの。あんな子供でも簡単にね」

リョウ呆然となった。俺は騙されたのか。そう。イギリスにやって来たリョウは相手のなすがままとなってを金を騙し取られるところだった。観光客相手の詐欺の洗礼を受けたのだ。

お礼を言いたかったが、あまりに驚いたし、人と…特に女性に慣れていない彼はオロオロとなり言葉が出なかった。目が泳ぎ唇が震えた。
「あ、あの…」

女性は笑って手を上げると歩き出した。
「じゃね。気を付けてね。バーイ」
「あ…あの…」
彼女は振り返る事なく足早に去って行った。

リョウは暫く呆然と彼女の背を見つめていた。なんて日本語が流暢なのだろうと思う。ホームではルークやエリカが白人モデルで滑らかに日本語を話したがそれはマシンだからだ。

彼らは語学をインストールすればどんな言葉だって自在だ。勿論人間だって何ヶ国語も操る人がいる事をリョウも知っている。だが目の前で喋るのを見ると驚くばかりだ。

「俺は日本語だけだな…」
いや。それだけではない。人とまともに話すことも儘ならない。ちゃんとお礼も言えなかった自分を恥じた。しっかりしろと叱咤する。

また詐欺に遭ってはならないとリョウは慌てた。足早になると脇目も振らずホテルを目指した。5分後にホテルに到着してチェックインを済ませた。部屋に入って水を飲み漸くホッとする。

時間を確認した。午後1時だ。よし。ハスミエマに連絡をしよう。スマートリングを起動して電話する。執事が取り次いでエマが宙空に浮かんだ。美しいエマの顔を見ていると緊張する。

エマはタケルの元恋人で、リョウは彼女を貶めてしまった。エリカに脅されたとは言えあまりの罪の深さに自分を恥じた。エマの望みで彼は渡英して彼女の目の前で謝罪するのだ。

「イ…イギリスに来ました」
エマは頷いた。3日前に渡英する事は伝えてある。リョウは明日の訪問の意を伝えた。
「な、何時頃が良いですか?」

エマはちっとも嬉しそうな顔ではない。
「2時頃かな」
リョウは頷いた。
「分かりました」

2人は無言になってしまった。謝罪する方と、される側。彼らに温かな交流などないのだ。
「で、では…明日…宜しくお願い致します」
通話を切るとまたホッとする。

緊張してばかりだと思う。さて次はキリ達や両親に無事に到着した事を伝えよう。リョウの目の前に彼らの姿が浮かぶと気持ちが楽になった。リョウにとって家族が1番なのだ。

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