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アンドロイド転生814

2118年7月4日 正午
新宿区:平家カフェ

扉がスライドし3人の客が入って来た。チアキはにこやかに出迎える。1人はよく知っている人物。保母時代(17年前)の園児だったミシマユイだ。チアキは微笑んでテーブルに案内した。

ユイはいつものようにメニューを見ない。
「お任せランチ3つね。この人は…私の叔父のミシマユウサク。それと従姉弟のサクヤ。話があるんだけど…後で時間を取ってくれる?」

チアキは頷いた。そう言えばと思い出す。以前ユイに言われたのだ。話があると。紹介したい人がいると。それが今日なのか?この人達なのか?どうして私に?マシンの私に?

ユイ達が食事を終えても客足は引かない。ユイは一度席を立つと新しい客に譲った。
「先生。また後で来るね。あの…話をする時に…お店の人達も同席して欲しいの」

園児だったユイはチアキを先生と呼んだ。チアキは何事かと思うが頷いた。店主に頼む。ユイとの話し合いの場を作って欲しいと。
「分かった。休憩時間だ。3時以降な」

ランチタイムが終わり一度店を閉めると、間もなくユイ達が戻って来て頭を下げた。
「休憩時間なのにすみません。皆様にもお願いがありますので話だけでも聞いて下さい」

店主の指示でチアキは大人達にはコーヒーを。小学生の少年にはオレンジジュースを出した。
「ユイがお世話になっています。叔父のミシマユウサクです。息子のサクヤです」

店の全員が頭を下げた。ユウサクは続ける。
「私は上野に住んでおりまして…来春から同じ場所で幼稚園を経営します。工事も進んでます。間違いなく4月には開園出来ます」

チアキ達は成程と頷いた。ユウサクは姪のユイを見て頷いてまた顔を戻した。
「ユイは素晴らしい幼稚園で過ごしたそうです。経営者が自ら教育していたと」

それは珍しい事だ。通常、教育はアンドロイドに一任して人間は経営に回るのだ。だがユイの通った幼稚園では経営者も携わっていた。季節毎のイベントには仮装して子供らを喜ばせたものだ。

ユウサクはチアキを見つめた。
「君はそこで働いていたんだろう?」
そう。園長(経営者)の亡き妻をモデルとしてチアキは誕生した。今から17年前の事だ。

心優しい園長はチアキの存在に慰められ活力を取り戻し仕事に励んだ。チアキも保母として職務を全うした。だがやがて園長は心の均衡を崩し自ら命を絶った。チアキが来て1年後だった。

施設は閉鎖となり園児達はよそに移った。チアキを始め職員達は廃棄が決定された。自我の芽生えたチアキはそれを恐れて逃亡し、ホームに救われて今に至る。そしてユイと再会したのだ

ユウサクは姪をチラリと見た。
「ユイは常日頃から、あの幼稚園は楽しかったと言います。良い教育は子供の心に残るものです。私もそんな場を作りたいのです」

ユウサクは店主に頭を下げた。
「お願いします。チアキさんの契約を私に譲って頂けませんか?彼女は幼稚園の全てを知っている。きっと力になってくれると思うのです」

店主達も勿論チアキも呆気に取られた。チアキの心が震えた。こんな事があるものか。アンドロイドの自分が人間から望まれているのだ。それも…また保母として必要とされるなんて…。


※チアキが誕生し、幼稚園で過ごしたシーンです


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