見出し画像

アンドロイド転生122

(別れの朝)

モネは自分の頬を包むアオイの手に手を添えた。
「笑えないよう…!カーだって泣いてるじゃん!」
2人は固く抱き合った。アオイはモネの温もりをいつまでも感じていたかった。

だが無理矢理引き離すとアオイは微笑んだ。
「さぁ、学校です。お勉強を楽しんで下さい。モネ様は素敵な大人になります。私が保証します」
「カーも素敵なナニーだよ。私が保証する」

モネは嗚咽を上げながら家を出た。アオイは自室に行くと窓を開け手を振って見送った。毎朝の恒例の行事だった。モネは何度も振り返り、やがて曲がり角を折れてその姿は見えなくなった。

リビングに戻るとサクラコとザイゼンに頭を下げて別れを告げた。タカミザワ家に来てからの年月。死んで生まれ変わっても心が折れず生きていけたのは彼らの優しさ温かさだった。

「サヤカ。12年間有難う。あなたがナニーで本当に良かった。私は子供を産んで本当に良かった。モネが良い子に育ったのはサヤカのお陰。幸せよ」
サクラコの声が震え頬に涙が伝った。

アオイは感激した。サクラコが泣いているのだ。
「こちらこそ優しくして下さってとても嬉しかったです。お子様を育てさせて頂きまして有難う御座いました。私も本当に幸せでした」

サクラコがアオイを抱き締めた。12年間で初めての事だった。彼女の体温を感じ胸が熱くなった。アオイも背に腕を回した。涙がポロポロと零れた。素晴らしい主人だった。本当に…。

ザイゼンもアオイを抱き締め、背を優しく叩いた。まるで父親のようだった。アオイの瞳から新たな涙が落ちた。ザイゼンがいたからこの世界の孤独から癒された。感謝していた。

「では車を呼びます」
アオイは配車アプリにアクセスした。間もなく車が到着すると深々と頭を下げて微笑んだ。2人には笑顔を覚えていて欲しかった。

エントランスを出てマンションを見上げた。初めて来た日がつい昨日の事のようだ。12年前の時と同じようにアオイは着用しているワンピースと靴だけ…ではなかった。胸元には愛が煌めいていた。

車に乗り込んだ。茨城県つくば市のアオイが生まれたTEラボに向けて滑るように走り出した。窓から慣れ親しんだ街を眺めた。いつも散歩していた公園を通り過ぎて胸が切なくなった。

緑とドーム型の白い建物群。初めてここに訪れた時はあまりにも生前の見知った都会の風景と違い過ぎて悲しかった。でも12年の歳月は我が街にしてくれた。有難う。皆様。さようなら。さようなら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?