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アンドロイド転生57

2102年 秋

トウマはハヤトに友達以上の気持ちを抱いていた。それは恋と呼ぶものだったが、幼い彼にはそれがまだ分からなかった。ただただハヤトを独占したかった。アリサが邪魔でならなかった。

だがアリサに対抗して意地悪をするような気概のある性格ではなかった。トウマは内に篭り、学校から逃げ出すことしか考えられなかった。あの日は公園で絵を描いて過ごした。

両親に報告されてしまい、2人に理由を問われたが応えられなかった。母親はニッコリと微笑んだ。
「もうしちゃダメよ」
怒る事も追及する事もしなかった。

トウマは両親をつくづくと思い返す。2人は怒った事がない。いつでもご機嫌だ。ママは毎日笑ってる。パパもそうだけど。いいなぁ。でも僕だって少し前まではいつも楽しかったのに…。

ハヤトとアリサ。別れてくれないかなぁ。ハヤトがやっぱりトウマと一緒の方が楽しいからって言うんだ。そしたらアリサもそうよね。分かった。トウマと仲良くねって笑うんだ。あーあ…。

憂鬱な気持ちでトウマは通学路を歩き、ハヤトとアリサの仲睦まじい様子を眺めていた。教室に到着すると楽しそうなお喋りに包まれる。トウマは心が晴れなかった。やがて全員が揃った。

トウマの前の席の女子が後ろを向いた。
「宿題してきた?」         
トウマは頷いたが本当は宿題などしていなかった。最近の彼はそんな気になれない。

音楽でフルートの宿題だ。ブラームスの子守唄。手に持ったってため息ばかりなのだ。教室にアンドロイドがやって来て微笑んだ。教師だ。
「皆様。おはようございます」

生徒達が元気に挨拶をする。
「さぁ、みんなで一緒に吹きましょう」
全員が曲を奏でた。アンドロイドは耳を傾け、演奏が終わると一人一人に指導した。

「トウマ様はもう少しリズム良くして下さい」
「ふわぁい…」
気のない返事をする。トウマは音楽の授業よりも図画工作の方が好きだった。

特に美術は得意で将来は画家になるのが夢なのだ。しかし彼には約束された未来があった。300年続く製薬会社の代表者だ。だがそんな遠い先の事よりも目の前の事態の方が彼にとって重要だった。

トウマはハヤトの背中を見つめた。振り向いてくれないかと思う。アリサがハヤトを見ていた。ハヤトは気付いて笑う。トウマの顔が引き攣った。悔しい、悲しい、腹立たしい。

もう!何であんなに楽しそうなの?ま、まさか…2人は結婚しないよね…?不安になった。
「あーもう…帰りたい…」
彼の7年の人生で初めての試練だった。


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