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アンドロイド転生67

サクラコがパーティに出かけた後、アオイはモネに離乳食を与えベビーバスに入れた。肌や関節に異常がないか念入りにチェックする。ミルクを飲ませて寝入るまで抱き、ベッドに下ろす。

モネは健やかな寝息を立てた。愛らしい顔立ちまるで天使だ。愛しさで胸がいっぱいになる。時間を確認すると定刻通り夜の8時だった。
「お休みなさいませ」

リビングに戻ると、ザイゼンはキッチンの掃除を隅々まで終えたところだった。とは言っても毎日の日課でいつでも輝いていた。この方が気持ちが良いでしょう?と満足げに微笑むのだ。

ザイゼンがニッコリとした。
「サヤカさん、この音楽はご存知ですか?」
彼の口元から管弦楽のメロディが流れた。
「懐かしい…!美しき青きドナウですね…!」

「そうです。オーストリアの第二の国歌と言われるくらい有名です。ワルツですね。お嬢様、一曲私と踊って下さいませんか?」
ザイゼンは腰を曲げて手を差し伸べた。

アオイは驚いて両手を広げて慌てて振った。
「ワルツなんて踊れません」
「大丈夫。三拍子です。はい!1.2.3!」
アオイの手を取り誘導し始めた。

アオイは緊張で胸が高鳴る。だがすぐにアオイの脚はザイゼンと同じようにステップを踏み始め、広いリビングを駆け回り始めた。アオイは楽しくなって来た。疲れる事の知らない2人。

30分という長い一曲を踊った。
「有難う御座いました」
ザイゼンは左手を背に回し右腕を90度に折り曲げて深々と頭を下げた。

ザイゼンの執事モデルは本当に素晴らしい。当たり前だけれどいつでも紳士だ。その後は2人でソファに並んで古い映画を観た。ブレードランナーという洋画でアンドロイドの物語だ。

人間に従事する期間は製造されて4年。その後は自意識が芽生え人間に反旗を翻すため安全装置が働き寿命を迎えるのだ。アオイは悲しくなった。たった4年の短い命だなんて…。

その期間は過酷な重労働の日々。逃亡したものの彼の命はカウントダウンされる。とうとう尽きた。雨の中、死にゆくアンドロイド。力を失った手から飛び立つ鳩。アオイは涙が溢れた。

もし私に自意識があると分かったら追われる立場になるの?廃棄されてしまうの?そもそも生まれ変わる人間なんているのかな。でも私だけじゃないと思いたい。そんな人と出会ってみたい。

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