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アンドロイド転生88

2105年 夏
カノミドウ邸:東屋

やっとシュウと会えて、これから本題に入ろうとした矢先にモネはケーキを食べたいと言い出した。アオイをグイグイと引っ張る。ナナエはつまらないと口を尖らす。アオイは慌てた。時間がない…!

アオイは思わず口走った。
「あ、あの!り、輪廻転生ってご存知ですか?」
「りんね?」
「生まれ変わる事です…!」
 
シュウは思いついたように軽く首を振った。  
「ああ…」
「信じますか…?」
「カー!ねぇ〜。行こうよぉ〜!」

モネはアオイに注意を向けてくれと言わんばかりに全身の力で引っ張る。アオイはモネを見下ろして宥めるように微笑んで何度も頷いた。
「は…はい。モネ様。す、少しお待ち下さい」

アオイはシュウを振り返るとひたと見つめた。
「…信じますか?」
シュウは笑みを浮かべた。
「さぁ…?私は目に見える物しか信じませんね」

シュウは笑っていたものの実際は驚いていた。こんな荒唐無稽な話をアンドロイドがするなんてどうかしている。今時の機能は様々なものがあるのだなと感心していた。

「もし…もし…旦那様の…元婚約者のアオイさんが生まれ変わったら…どうしますか?」
アオイは必死だった。騒ぐモネの手を優しく撫でた。もう少し…もう少し時間を頂戴。

シュウは立ち上がった。
「どうもしません。そんな事はあり得ません」 
ナナエがシュウの腕にぶら下がった。
「ねぇ〜。お祖父ちゃま〜!早く行こうよぉ〜。ケーキなくなっちゃうよ〜!」

ナナエの言葉にモネは慌てた。
「カー!早くぅ!」
「はい…!モネ様、行きましょう」
アオイも立ち上がると歩き出した。

4人で屋敷に向かった。シュウは無言だった。アオイはどうして良いか分からなかった。素敵な時間になる筈だったの悪い方向に進んだような気がしてならない。シュウ…怒っているの?

「あの、あの…。申し訳ありません。故人を偲ぶ筈だったのに何だか奇抜な事を言ってしまいました」
「輪廻転生とはビックリしましたねぇ。あなたは信じているんですか?」

信じているも何も体現している。だから言いたい。アオイだと。無念を感じた。本当はもっと慎重に話を進める筈だった。それなのに時間がなかった。シュウの横顔を見ていると瞳が潤んできた。

アオイは涙を堪え口元を引き締めた。 
「はい…。信じています。身体は滅んでも心は…魂は…ずっと残ると思っています」 
「そうですか。アンドロイドの信念ですね」

シュウの口からアンドロイドという言葉が出てアオイの心臓は掴まれたようになった。アオイはその場で固まった。世界の時間が止まったように感じた。手を繋いでいるモネが躓きそうになる。

そうだ…私は人間じゃない。彼にとっては機械の塊…マシンなのだ。そのマシンの戯言なのだ。2人の距離はあまりに遠い。遠いのだ…。シュウは先に進み気が付いたように振り返った。

「じゃあ。失礼しますよ」
その背が人混みに紛れていくのをアオイはただ見つめるしかなかった。モネが叫ぶ。
「カー!早くぅ〜!」

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