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アンドロイド転生84

2105年4月
サクラコのアトリエ

サクラコが柔かに微笑んだ。
「今日から仲間になったカノミドウトウマ君です。皆んな宜しくね」
生徒達が笑顔で拍手した。

トウマはペコペコと先輩達にお辞儀をする。
「宜しくお願いします」
緊張しつつも口元には笑みが浮かんでいた。希望通りに生徒になれたのだから。

サクラコはトウマの背を押して椅子に座らせた。彼女は絵筆を持って林檎を指した。
「では、始めましょう。今日はリンゴを描きます。リンゴの特徴は?」

赤い!丸い!硬い!光ってる!甘酸っぱい!中身は白い!色んな意見が飛んだ。
「そうです。ではもっと沢山の特徴を見つけて自分の中で解釈したリンゴを描きましょう」

ハーイと返事をして一同はスケッチブックに描き出した。トウマはリンゴをじっくりと見た。特徴…解釈…。そうか。絵を描くというのはそう言うものなのか。そこに個性が生まれるんだな。

アオイはアトリエのドアの前で耳を澄ませていた。トウマのことが気になって仕方がなかった。今日から月に2日、彼がタカミザワ家にやってくる事になって嬉しくて堪らない。

ザイゼンがアオイの後ろを通り過ぎた。
「さっきから何故アトリエの前で行きつ戻りなさっているのですか?」
ビックリして飛び上がった。

振り返るとザイゼンが笑っている。恥ずかしくなった。これではまるでお習い事を心配している過保護な母親みたいではないか。
「い、いえ。あの…」

誤魔化すために慌てて、キッチンに向かった。
「ザイゼンさん!何かお菓子を作りましょう!子供達に食べさせましょう!」
「そうですね。プリンでもしましょうか」  

2時間後。レッスンを終えた生徒達とモネがテーブルに着いていた。モネは掌を合わせた。
「ごちしょうしゃまでしたっ!」
大喜びでプリンを平らげたのだ。

生徒達もトウマも喜んで食べた。いつの時代でも子供はお菓子が好きなのだ。アオイは微笑む。
「トウマ様。レッスンは如何でしてたか?」
「楽しかった!」

トウマはスケッチブックを出すと広げた。
「リンゴの甘酸っぱいを表現する事にしたんだ!楽しいって思った!見て!」
「どれどれ…」

デフォルメされた子供がちょっと大口で艶やかなリンゴを食べていた。八の字の眉毛に甘酸っぱさが表現されている。躍動感があり楽しそうだ。サクラコは良い先生なのだ。

以前はサクラコの作風を理解できないと思っていたが画廊のオーナーの勧めでモネを描くとアオイの心配をよそに幻想的で愛らしい出来栄えだった。モネシリーズは彼女の代表作になった。

トウマはアオイを見た。
「僕さぁ。大人になったら画家になりたいんだ」
サクラコが目を輝かせる。
「あら、それは嬉しいなぁ!」

トウマは頬を膨らませた。
「でも…ダメなんだ。パパの会社があるから。僕は継ぐんだって」
カノミドウ家は代々製薬会社を経営している。

アオイは感慨深い思いになる。シュウも繋いだのだ。いずれトウマも…。でも何も長子ではなくても良いのではないか?カノミドウ家には次男のミツキもいるのだ。だが他人が口出しできない。

サクラコも同じように考えて口を挟まなかった。それにトウマはまだ子供だ。成長すれば心は変わるだろう。それまでは自由な発想で絵を描いて欲しい。アオイ達は心からそう思った。

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