見出し画像

アンドロイド転生118

2114年3月8日(別れまで3日)

「サヤカ。映画を観ない?一緒に」
夜9時。アオイが自室から出てリビングに行くとサクラコに声を掛けられた。ザイゼンもソファに座っている。同じく誘われたのだろう。

「はい!是非!」
こんなひと時は久し振りだった。モネは既に眠っている。今は大人の時間である。
「付き合って」

サクラコはニッコリと笑ってワインボトルを掲げた。彼女は赤ワインが特に好きなのだ。アオイとザイゼンは水を飲む。皮膚の保湿に必要なのだ。3人は乾杯をした。

映画はサクラコの恋人の作家のオサナイの原作だ。記憶喪失になってしまった恋人への献身的な愛を綴った作品だった。記憶を取り戻さないままもう一度愛を重ねていく過程が丁寧に描写された。

恋人が複数いるのが当たり前のこの時代に、たった1人の人を想い続けるという古典的な愛が大衆の心を掴みベストセラーとなった。映画も人気の俳優を起用して万人に支持された。

「どう思う?記憶喪失の恋人にあんなに心を寄せられると思う?」
サクラコが真剣になって質問をしてくれるのが嬉しかった。アオイは顎に手を当てて考えた。

ある意味…シュウと自分の関係のようだ。彼は私の存在に気づいていない。勿論想い出を語ることもない。私の事なんて忘れてしまったと主人公が不安になる気持ちがよく理解出来た。

ザイゼンが真剣な眼差しをサクラコに向けた。
「私は支持します。人を愛する気持ちは本人にとって希望になります」
そうか。希望か。私も打ち明けられないままでもシュウがこの世にいる事が生きる糧になっている。

「サヤカは?」
「幸せなのでしょう。たとえ自分を忘れてしまってもその人が生きていることが…」
「2人共純粋だなぁ!私はどうかなぁ?新しい恋を見つけちゃうかも!」

アオイは小首を傾げた。
「サクラコ様は複数恋愛ですが、どの方も等しく愛してらっしゃるんですよね?」
「そう。其々の良いところが好きなの」

アオイはそうだが…と思う。
「お相手に恋人がいても構わないのですよね?」
サクラコはニッコリとした。
「ええ。愛する事は自由だもの」

一体どんな思考回路なのかアオイには理解出来なかった。愛とは流動的なものなのか。だが時代が変われば人の価値観も感情も変化する。きっとまたいつか単独恋愛が推奨される時が来るのだろう。

出来ればモネが成人した頃はそんな時代だと嬉しい。彼女が複数の人の女性になるのは嫌だ。唯一の人と相思相愛になって欲しい。もう2度と恋愛など出来ない身の上のアオイにとって、モネの幸せが願いだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?