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アンドロイド転生811

2118年7月2日 午後2時過ぎ
イギリス:チェルシー地区
ハスミエマの邸宅

リョウはエマの元へやって来た。謝罪の為に遥々海を渡ったのだ。彼女は日本での栄光も友人も恋人も失った。リョウの自己保身のせいでエマの順風な人生が潰されたのだ。

頭を下げようとしたリョウにエマは切り出した。100日間、毎日家に通って来いと。
「どう?出来る?それが誠意だと…私は受け止めるけれど?そしたら許すけど?」

イギリスは2日で帰ろうと…いや少しは観光を楽しんでから帰国しようと思っていたリョウは目を丸くする。エマの提案に驚いていた。3ヶ月以上も毎日ここへ通えと言うのかと。

エマが腕を組み直した。リョウの目にエマの腕の傷が飛び込んできた。5㎝程の筋になっている。エマが自殺を図った時につけた跡だ。そうだ…エマは身も心も傷ついたんだ…。

リョウは俯いた。眉間に皺が寄った。拳を握った。なんて俺は甘かったんだ。イギリスに来さえすれば…エマに1度会って詫びれば良いと思っていた。後は観光でもしようと。

所詮、被害者の苦しみなんて分からなかった。いや。分かろうともしなかった。エマは深く傷付いて自殺を図ったんだ。もしかして死んでたかもしれなかったんだ。俺のせいで。

執事が紅茶を運んできた。室内に芳醇な香りが充満した。リョウの手元にカップが置かれた。エマが手のひらを差し出した。
「どうぞ」

リョウは紅茶から立ち昇る湯気を見つめた。白い煙はふんわりと溶けていく。エマも…もしかしたら世界から消え失せていたかもしれない。生きていたから良かったなんて言えない。

こんな綺麗な人の人生を俺は…潰したんだ。馬鹿だ。本当に大馬鹿野郎だ。
「はい。分かりました。通います。毎日。絶対。約束します」

リョウは立ち上がった。深く頭を下げた。
「第1日目の謝罪をします。申し訳ありませんでした。心からお詫びします」
エマは無言だった。

リョウは扉に向かうと再度頭を下げた。
「では、失礼致します」
リョウは屋敷を出た。彼は建物を見上げて力強く頷いた。よし。あと99日だ。

エマはリョウが手を付けなかった紅茶を眺めていた。湯気がユラユラと立ち昇ってスッと消えていく。少し前まで自分もこんな風に世の中から消え去りたいと思っていた。

エマはフッと笑う。
「ねぇ?あと99日。来るかしらね?」
執事が微笑んだ。
「口調や顔つきに決意が伺えました」

リビングの扉が開き外出していた母親が入って来るとテーブルの紅茶に気が付いた。
「ただいま。あら?お客様?」
「うん。今日が1日目。あと99日来るかも」

母親は眉根を寄せた。
「何を言ってるの?」
エマが笑った。母親は目を丸くする。イギリスに来てからずっと沈んでいた娘が笑ってる…!

「なに?なにがあったの?」
エマが立ち直ってくれるならこんなに嬉しい事はない。99日誰かがやって来るならどんどん来て欲しい。母親は胸がいっぱいになった。

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