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アンドロイド転生808

2118年7月1日 午前11時
イギリス:ヒースロー空港

リョウは荷物を受け取り空港内から外に出た。空は高く青い。気温は快適で爽やかだ。イギリスは天気が悪いという話は違うのだなとリョウは思う。実際天候が優れないのは秋だ。

目の前の無人タクシーに彼は乗り込んだ。車内のAIが英語で挨拶をする。
「日本語で頼む。ロンドンに行ってくれ」
AIは流暢な日本語で応えて発車した。

リョウは車内から街並みを眺めて驚いていた。日本の風景とまるで違う。ホームは山に囲まれた集落だし、東京は近未来型で低層住宅のドームが碁盤の目のように並んでいた。

だがここは多くの古い建造物が趣を湛えて佇んでいる。大きな時計台がイギリスの顔だ。ネットで事前情報は得ていたものの百聞は一見にしかずだと思う。目の前の景色に圧倒された。

30分程で目的地に到着すると車を降りてリョウはスマートリングを起動した。マップで自分が泊まることになるホテルに向かう。周囲を見渡して感心する。なんと多くの人種がいるのかと。

白人のカップル。その近くには観光らしき団体。中国語が飛び交っている。黒人の子供達が走り去って行く。フードで顔を覆い尽くした女性達。他にも多種多様な人達。

大通りには飲食店が多数あり店先には無数のテーブルセットが並べられて食事を楽しんでいた。鳩がやって来て道路を突つく。足元を見て改めて驚く。石畳とはこう言うものなのかと。

リョウ頭を振った。見るもの聞くもの全てが新鮮で目を見張ることばかり。世の中はなんて未知なことに溢れているのだろうか。自分の世界の狭さをリョウはつくづく思い知った。

キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、東洋人の少年が目の前にやって来た。
「おじさん。日本人?」
「うん。そうだよ」

少年は目を輝かせた。
「観光に来たばかりでしょ?」
「なんで分かるんだ?」
誰が見ても分かるほどリョウはアウェイだ。

「案内してあげようか?明日1日。エスコートするよ。ペイは50ポンドでどう?」
リョウは考えた。明日はハスミエマに謝罪に行くのだ。観光などする時間はない。

だがタカオの言葉を思い返す。せっかくの海外なのだ。とんぼ帰りなどせずに異国を楽しめと。エマの家に行くのは明後日でも良いかなと思い始めた。それに50ポンドは1万円程度だ。

「じゃあ。頼もうかな」
「うん!前払いでヨロシク」
「どうすればいいの?」
「リングを起動して俺に送金して」

リョウは頷くとなすがままに従う。その腕を誰かが掴んだ。リョウは驚いて相手を見た。白人の女性だった。女性の顔は真剣だった。
「ダメよ」

女性は少年にキツイ口調で英語で何か言うと、少年は両手を上げて笑いながら去って行った。女性はリョウに向かって苦笑する。
「日本人でしょ?甘いなぁ。油断し過ぎ」

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